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2024.05.12
水際のキャンパス

あしもとのたからものに気づく!「春の和ハーブ講座」が開催されました

#Eat&Food

植物たちがふわぁっと一斉に芽吹き始めた、4月15日。
目黒地区内外から12人もの参加者が集い、「春の和ハーブ講座」が開催された。
講師を務めてくれたのは、平川美鶴先生((一社)和ハーブ協会副理事長、植物民俗研究家、以下 美鶴先生)と古谷暢基先生((一社)和ハーブ協会理事長、医学博士)のおふたり。
和ハーブとは、江戸時代以前から身近な暮らしに広く活用されてきた有用植物のこと。
ヨモギ(蓬)やカラスノエンドウ(鳥野豌豆)、タンポポ(蒲公英)、ツバキ(椿)など、
日本で暮らす人なら誰でも一度は見たことがあるであろう、様々な植物が、草木を問わずじつは和ハーブなのだ。

フィールドワーク

フィールドワークを始め、まず最初に見つけたのは、カラスノエンドウ。小さなピンク色の花をつけるマメ科の植物だ。多くの人には雑草と認識されているこの植物も、実は立派な和ハーブ!

「おひたしや天ぷらにして食べるとおいしいですよ。あと、マメ科の植物は畑の窒素を増やしてくれる役割があるから、緑肥としても活躍してくれます」と美鶴先生。参加者からは、「食べられるなんて知らなかった!」という声も。


続いて見つけたのは、タンポポ。日本にはタンポポが在来・外来種含めて20種類以上確認されているそうだ。タンポポは、花も葉も根も天ぷらや生でもおいしく食べることができるとのこと。味は生えている環境によって変わるそうなので、各地域のタンポポを食べ比べてみるのも面白いかもしれない。
(植物は日光や水分など、自分が生きやすいように体内の成分を作るからだそう)


小雨が降る中でも参加者の好奇心はつきない。途中、美鶴先生が「全然、この場所から動けませんね」と驚くほど多くの種類の和ハーブに出会う。


その後も、歩き進む途中で現れるクローバーのそっくりさん「カタバミ(酢漿草)」、レタスの原種「ノゲシ(野芥子)」、ゴボウの原種「アザミ(薊)」、日本での優秀民間薬「カキドオシ(垣通し)」、アイヌでは貴重なでんぷん源となった「オオウバユリ(大姥百合)」などを教えてもらった。あちこちに生えている珍しくない植物が和ハーブであることに、参加者はみな驚きと興奮を隠しきれなかった。

野に生えている植物の中には毒を持つものも存在することがわかった。

毒を持つ和ハーブを前に緊張する参加者に、美鶴先生は「人にとって有毒な成分を含む植物が、意外と身近なところにあります。素手で千切ったり、むやみに口に入れたりするのは危険です。そしてそれに気を付けながら、しゃがんで和ハーブに近づいて、葉や花が茎からどう出ているか、毛があるか、匂いがあるか…などを五感で語り合ってみることも大切なことです」と声をかける。

和ハーブに関する書籍などを片手に野山をお散歩すると、あしもとのたからものにたくさん気づくことができるだろう。

美鶴先生による講座(座学)

テーマ:気候風土に根差した植物活用の知恵

日本に古くから受け継がれる人々の暮らしに寄り添う植物文化に感銘を受けて、和ハーブの世界に足を踏み入れた美鶴先生。南北に長い日本には様々な植生があり、地域に根ざした植物文化が広くあったそうだ。しかし近年、植物文化を大切にしてきた方々が高齢化し、文化が少しずつ消滅している現状がある。

「地域の方の言葉を実際に聞けば聞くほど、こうした文化を未来に残していかないといけない、と思ったんです」

美鶴先生は、時間の許す限り日本全国を飛び回り、植物文化を大切にする地域の方のお話を聞き、記録に残している。

講座の中では、美鶴先生が幾度となく足を運んでいる、”薬草の宝庫”として知られる伊吹山麓(岐阜県/滋賀県)での生産加工法や植物活用の知恵、焼畑が有名な椎葉村(宮崎県)などが紹介された。いずれの地域も、風土の植物に寄り添う暮らしのあり方が今なお息づいている。

「和ハーブは古くて新しい、日本の宝物」

美鶴先生は植物民俗学の視点から、身近な植物そのものの特性を捉え、先人たちがそれらを生活にどう活かしてきたのかを分析している。そして、現代と未来の生活に再度とり入れ、実践していくことが大切だとお話しされた。

「松野町のおじいちゃんやおばあちゃんに、植物のことや、身近な暮らしのお話をたくさん聞いておきましょう」という先生の言葉が参加者の心に染み入る。

和ハーブランチ

ランチは今回の講座を主催する細羽伸枝さん(森の宝探しプロジェクト代表)のお手製「7つの和ハーブを使ったラープ(ラオス料理)」「ヨモギジェノベーゼ、合鴨卵の手作りマヨネーズ、味噌だれと季節野菜の蒸籠蒸し」を目黒米と目黒のビワ茶とともにいただく。

フレッシュな和ハーブの風味が爽やかなラープの上にさりげなく乗るエディブルフラワーはシバザクラ(芝桜)。フィールドワークの際に摘んだお花。季節野菜の蒸籠蒸しのソースにはヨモギのジェノベーゼが。新芽を使っているので、苦味やエグ味はほとんどない。目にもおいしく、体にも優しい和ハーブランチを楽しみ、参加者の会話も弾んだ。

古谷先生による講座(座学)

テーマ:植物の原産地と食文化から世界と日本の真実を知る

ランチデザートのよもぎフィナンシェ(moriamu®︎)とビワ茶をいただきながら、古谷先生の講座へ。

冒頭、様々な食べ物に関するクイズから始まった。

「チョコレートの本場といえば、どの国ということになっていますか?」

有名なのはベルギー。でも原料の「カカオ」は中南米原産の植物であり、ヨーロッパには一本も生えていない。

「コーヒー、紅茶を最もよく飲む国はそれぞれどこでしょう?」
コーヒーをよく飲むのはアメリカだが、原料植物のコーヒーノキはアフリカ原産で、同じくアメリカ合衆国の植物ではない。同じく紅茶といえばイギリスを発想するが、緑茶や烏龍茶の原料でもあるチャノキは、ヒマラヤ山麓が原産である。

いずれも消費国と原産地が異なる。

なぜか。

「知られざる文化の流れですよ」と古谷先生は言う。。

植民地の歴史が「産地≠消費国」という関係を作っているということだった。
「では、日本が原産の野菜は?」
答えは、ウド(独活)、アズキ(小豆)、ミツバ(三つ葉)、セリ(芹)、ジネンジョ(自然薯 などが挙げられるが、わずか20種ほどしかないそうだ。ざわつく参加者たち。

「寿司、味噌、蕎麦、昆布、納豆、鰹節。これら和食の中で、日本オリジナルの食材あるいは食文化といえるものはどれでしょう?」

なんとこの中では“鰹節”のみが、日本で生まれた食文化といえるとのこと(諸説あり)。ここでもポイントは、使われている植物食材の原産地だ。

「イネはインドまたは中国南部の原産。味噌や納豆の原料となるダイズは中国。蕎麦はロシア。さらに昆布のダシ文化の源流は韓国にあると考えられます。」

言葉がでない参加者たち。
日本は究極のチャンプルー文化(多種多様な文化が融合した文化)なのだそう。
食と文化は紐づいているので、和食を大切にすることが日本原産の食材(和ハーブ)を伝承することに繋がるのだ。

そして、多くの和食のルーツを持つ韓国は「薬食同源」の国。日本にも古くから民間療法としての和ハーブ文化があり、まさに和ハーブこそが日本のスーパーフードなのだと古谷先生は説明する。改めて、和ハーブを知り、学び、活かしていくことの大切さを感じた。時間を延長して終えた講座は参加者一同大満足の様子だった。

「春の和ハーブ講座」主催 森の宝探しプロジェクト代表 細羽伸枝さんより

限界集落、松野町目黒に移住した4年前。地元の方に「こんな何にもないところ、どこがよかったの?」とよく言われました。確かに信号もコンビニもない所ですが、美味しい空気、綺麗な水、温かい人間関係などお金では買えないものばかりがここにはあります。そして、自分の足もとには食べられて薬にもなる旬の和ハーブが沢山!身の回りにあるもので生活が豊かになる喜びを知ると、心が穏やかに。そして、森の国には私たちがまだ知らない宝物が散りばめられています。森の宝物、みんなで探していきませんか。

次回の和ハーブ講座は秋を予定しています。ご興味を持たれた方はお気軽にご参加くださいね。

講師 / 平川美鶴 (instagram @waunica) ・古谷暢基先生 (instagram @masaki_waherb
協力 / 一般社団法人和ハーブ協会 (instagram @waherbkyoukai)
和ハーブ協会公式HP https://wa-herb.com/
ライター / Maki Azuma
写真 / Koji Watanabe