RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.29
目黒流リーダー術

アイブラックリーダー
「自分は常に底辺で生きようと思っとるんよ」

そう語るのは、目黒地区の地域活性化グループ「アイブラック」の代表や、集落の役員を長年務めてきた、芝勇樹さん(しばゆうき)さん(45)だ。
地域内の伝統行事だけでなく、若者が中心となって新しく企画したイベントの運営にも携わり、幅広い年齢層と関わる彼は、目黒住民の世代間を結ぶ架け橋のような存在でもある。
彼は、周りの上に立って組織を引っ張る私たちが思い描くようなリーダーではない。しかし、謙虚な姿勢で底辺から組織を下支えする彼は、皆が認める目黒地区のリーダーだ。今回は縁の下の力持ち、勇樹さんのインタビューを行った。

地域活性化グループの結成

コロナ禍が収まり2、3年ぶりに伝統行事やイベントが開催されるようになった目黒地区。昨年の春には、滑床渓谷国立公園内に位置するホテル「水際のロッジ」とアイブラックが協力し、新たなイベント(森とめぐろ)の開催も実現した。

「新しい人が外から来て、最近は笑顔の住民が増えた気がするんよね」と、目黒地区にやってくる新しい風による町の変化について嬉しそうに語る勇樹さん。

そんな彼は約8年前、若者が少なくなり活気がなくなっていた目黒地区に対してやりきれない思いを抱えていたと当時を振り返る。

彼の勤め先である鬼北町愛治(あいじ)地区には、少子高齢化が進む地域を盛り上げるために、どんど焼きや夏祭りなどのイベントを企画する地域活性化集団が存在していた。
「目黒地区での隣近所との会話も昔より減ったし、愛治地区みたいにお年寄りにも外に出てもらって元気になれるイベントをやりたいと思ってね」

「生まれ育った集落をどうにかして救いたい」という彼の想いが20代から60代と幅広い世代の目黒住民の共感を誘い、地域活性化グループ「アイブラック」が発足した。

学生時代には学級委員などの経験もなく、元々リーダーシップがあったわけではないと話す勇樹さん。
企画したイベントでアイブラックが得られる利益はごくわずかという状況の中、他のメンバーのモチベーションの上げ方が分からずに悩むこともあったという。
それでも彼はできる限りイベントの準備を引き受けたり、一人一人の話を聞いたり、それぞれのメンバーと分け隔てなく関わることで団体をまとめてきた。

「1人で300個もの景品を買いに行った時は大変やった。
準備は大変やけど、当日にみんなが頼ってくれたり、運営側とお客さんの笑顔を見たりすると、やっぱりイベントは楽しいって思うんよね」

「誰にでも笑顔で接していつも謙虚でいたら相手も喜んでくれる。損得を求めてるわけじゃないけどそうしていると自分が困った時には周りが助けてくれるんよね」

分館長とアイブラックの二刀流

6年前には目黒地区の分館長(※)に選出された彼は、盆踊りや町民運動会などの伝統行事の運営にも携わってきた。※部落や町の行事の運営を行う役員
分館長とアイブラックのリーダーを掛け持ち、集落内での催し事の全てが自らの手腕に委ねられるようになった勇樹さん。
アイブラックメンバーの発案を取り入れ餅つき大会を開催したり、彼の幼少期に商工会が主催していた夜市を甦らせたりと、より積極的にイベントの開催に乗り出すようになった。
「分館長になって区長や組長とも連携が取れるようになって、アイブラックでも大きなイベントを企画できるようになったんよ。集落の中の組織図をイメージすることができるけん、誰に相談しなきゃいけないのかがわかるんだよね」

「自分より上の世代の人たちもイベントに協力してくれるし、世代関係なく1つのことを一緒にできるのも目黒の良さよね。いざという時の目黒の団結力はすごいんよ」
誰からも慕われる彼が世代間の壁をとりはらい、この地域の連帯感を生み出しているのだろう。

理想のリーダーとは

リーダーに求められる素質には明確な答えがない。先頭を切って引っ張るリーダーも多くの場面で必要とされる。
しかし、目黒地区の地域活性化グループのリーダーは、相手と常に同じ立場に立って誰とでも対等に話をできる彼だからこそ務まるのだと思う。
私たちに新たなリーダー像を見せてくれる勇樹さんと共に、目黒地区にたくさんの笑顔を増やすため、町を盛り上げていきたい。

ライター・撮影/ 高橋和佳奈
編集 / 井上美羽

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