RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.30
我が子は目黒っ子

目黒住民
少子化が進んでいる森の国には、約5年前に閉校となった松野南小学校がある。142年という長い歴史に休止符を打ってから、目黒地区に子どもの声が響くことは少なくなっていた。
そんな閑散とした南小の校庭で、近ごろ自由気ままに駆け回る子ども達と彼らを見守るお母さんの姿が見られるようになった。
2023年の春に目黒地区へ移り住んだ坪井さん親子だ。(お父さんは滑床渓谷に位置する宿泊施設『水際のロッジ』で勤務中)
今回は生活のフィールドを兵庫県から森の国へ移したお母さん、坪井萌友さん(つぼいもゆさん)に、森の国での子育てがもたらした心境の変化について語ってもらった。

森に引き寄せられた

「ゆくゆくは田舎暮らしがしたいねって夫と話してたんです。こんなすぐに移住を決めるとは思ってなかったけど(笑)」

と、語る萌友さんは、都会での生活をこう振り返る。

「結婚して子どもが産まれても社会との繋がりを切ってはいけない、社会の中で何かを成し遂げなければならない、という思いがあって。自分には高校時代から続けていたゴルフしかなかったので、育休後もキャディの仕事に復帰したりティーチングの資格を取ったりして模索していたんです。でも育児もハードだし、働く上で自分自身がゴルフの道にフィットしている感じがしなくて」

都会での自分の生き方にフィットしていない感覚があった彼女は、徐々に森の国へと導かれていった。

「妊娠出産育児を通して、改めて自分や子どもの体に取り入れるものを見直すきっかけがあったり、自分自身も子育てする上で精神的にきつい時があったことで、感情コントロールや心の整え方を調べたりするなかで、食や農の様々な情報を目にするようになりました。社会の中で地位とかお金を求めてもがくより、今目の前にあるもの、例えば食事とか生活リズムを整えながら生きる方が大切だって知ったんです」

同じタイミングで、旦那さんも営業マンとして数字を追い続ける働き方、物質面でいくら豊かになってもどこまでもゴールの見えない都会での暮らしに違和感を感じ始め、「将来は田舎暮らしがしたい」という想いがそれぞれ高まっていたという。そんな矢先、旦那さんが毎年夏に目黒地区で開催される「NAME CAMP」のスタッフ求人ページを見つけ、一家で森の国を訪れた。

「絶対住むしかないやんってなりました。お互い悩んでたタイミングで自分たちがやりたいと思っていたことが全てここで叶えられていて、これが答えやなと思いました。ここまでフィットすることないやろ、これを決断できなかったらこの先どこで決めんのって」

フィールドを変えて

萌友さんは約半年間の移住生活を振り返って、自分には目黒地区での子育てが合っているように感じるという。

元志くん(4)

「都会に住んでいた頃は、周りを気にしながらベビーカーを押してやっとの思いで公園にたどり着いたり、マンションだったから家の中でドンドンせんとってって言ったりしていたのが、今では思いっきり家の中で走り回れるし、窓を開けたらすぐに、山や川といった子どもたちにとって最高の遊び場があるんです」

都会の中は『危険』や 『禁止』と書かれた看板が多く、子どもにも制限がかけられている気がする。一方で、自然は子どもたちにとって自分の力を余すことなく発揮できる場所なのだ。

「子どもがなにかができないって言ってきた時は、大丈夫、なんでもできるよって言ってあげるんです」と語る萌友さん。子どもを信じて何でも挑戦させる彼女のポリシーは、子どもの力に制限をかけない森の国にぴったりである。

豪生くん(1)

今に集中して生きる

萌友さんが微笑みかけた瞬間に泣き顔から笑顔に変わる坪井家の子どもたち。

「子どもって感情を引きずらないんですよ、今しか見てないから。私も見習おうって思います」

確かに子どもは今という瞬間に集中する天才だ。

田んぼの泥は気持ちがいい

「ここの人はみんなが1日1日を生きてる感じがあって素敵やなって思います。

何者かにならなければって自分の道を求めてきたけど、本当はそうじゃなくて。今はこの瞬間しかなくて、この瞬間がベストで幸せなんです。今に集中できなかったらだめなんですよね。目黒にいるとそう感じさせられます」

萌友さんが子どもと森から学んだ「今を精一杯生きる」という術は、人生を模索していた彼女の道標になっているのだ。

彼女が都会で感じていた何かを達成しなければいけないというプレッシャーを私も感じることがある。しかし、今に集中して生きることができなければ、目の前にある幸せや目を向けるべきものに気がつくことができないのかもしれない。焦らなくていい、今に集中していればいいと教えてもらい、インタビューをしながら私の心も徐々に軽くなっていったのを感じた。

ライター / 高橋和佳奈

撮影・編集 / 井上美羽

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