RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.28
野いちごのように

雪輪酒店店主
「小粒でもみんなが体を寄せおうて、1つにまとまっとるやろ?山の中にあるそんな野いちごが好きなんよ」
そう語るのは、目黒地区で「雪輪酒店」を営んでいる河野梅香さん。
現在79歳の彼女は酒屋の店主だけでなく、目黒地区のサロン「野いちごの会」の会長を務めたり、松野町のシニアの会の運営もしている。地域を引っ張るプレーヤーとしてさまざまな顔を持つ、パワーのある女性だ。

「小粒でもみんなが体を寄せおうて、1つにまとまっとるやろ?山の中にあるそんな野いちごが好きなんよ」

そう語るのは、目黒地区で「雪輪酒店」を営んでいる河野梅香さん。

現在79歳の彼女は酒屋の店主だけでなく、目黒地区のサロン「野いちごの会」の会長を務めたり、松野町のシニアの会の運営もしている。地域を引っ張るプレーヤーとしてさまざまな顔を持つ、パワーのある女性だ。

取材にいったこの日も、彼女を訪ねに多くの住民たちが雪輪酒店を訪れた。

目黒の娯楽

長年に渡り目黒地区の中心部で地域住民の集いの場となっていた「毛利酒屋」の次女として生まれた梅香さん。

若い頃から酒屋の手伝いをしていた彼女は、地域の人たちによってお店が支えられていると感じていたという。彼女が雪輪酒店を開業させたのは今から約20年前。当時実家の毛利酒屋を継いでいた姉家族が目黒を離れ、実家の酒屋を閉じたことがきっかけだった。

それまで毛利酒屋を愛してくれた地域住民の存在が、彼女に新たな酒屋を始める動機を与えてくれたと語る。

「今で言ったら女性起業家よね!」と笑いながら話す彼女は、開業当時も持ち前の明るさと芯の強さを武器に、女性1人でお店を営むことへの不安をものともせず店に立ち始めたのだ。

「年寄りも子供も集まれる場所にしたい」という彼女の想いは、放課後に近所で遊んでいた子供達や仕事終わりの地元民を引き寄せた。

しかし度重なる法改正により、自動販売機やコンビニ、スーパーなど、酒屋以外の場所でも簡単に酒類が購入できるようになった。そして開業からおよそ10年後にはお店の賑わいが徐々に薄れ始め、売上の減少に歯止めが効かなくなっていったのだという。

それでも梅香さんは住民の娯楽である酒屋を現在まで大事に守り続けてきた。

自身の雪輪酒店での商売人生を振り返りこう語る。

「楽しい思い出ばっかりだったね。みんなが助けてくれるし商売してよかったと思う。本当に楽しかった!だから売上が悪くても辛いと思う時はあんまりなかったね…。採算は合わなくてもいいのよ。楽しかったら」

支え合う地域に

今から14年前(2009年)に松山市で地域サロン(※)の存在を知った彼女は、町内にも高齢者の交流の場を設ける必要性を強く感じ、目黒地区のサロン「野いちごの会」の設立に乗り出した。
※地域住民が集まり仲間づくりや社会参加を目的とした団体

野いちごの会では月に1度の親睦会で語り合ったりだけでなく、様々なジャンルの講師を全国から呼んだ講演会なども行ったり、時代にあった情報を得られる知的なサロンを目指した。さらに年に1度の小旅行は彼女自ら企画をしたという。

「33人乗りのバスにいっぱい乗ってね、私はガイドをしながらいくの。歌も歌ってバスの中が楽しいってみんなが喜んで言っとった!」

若者の多くが都会に移り住み、人口が減り続けている目黒地区は今や65歳以上の高齢者が住民の過半数を占める「超限界集落」と呼ばれている。梅香さんはこれまでも、孤独な環境で生涯を終える人たちを身近で見てきたのだと話す。

「歳を取ったらね、金貧乏よりも人貧乏になられん (なってはいけない) って言うのよ。お金があってもお友達もなんちゃない (全くいない) 。1人ぼっちは本当に寂しいんやけん」

目黒の住民が互いに寄り添い合えるきっかけとなる「野いちごの会」を立ちあげてから10年後の2019年。当時、他の地区でも地域サロンは作られていたものの、野いちごの会で企画してきたような知的な活動をしていなかった。そのことを気がかりに思っていた梅香さんは、「次は点と点を結んで線にして、町内でネットをつくらなきゃいけん」とより活動の幅を広げるために踏み出した。

彼女の強い意志が火種となり、町内の女性を集めた「松野を愛するシニアの会」が発足した。地域の未来のために役場や町議会委員と意見交換の会を開催し、積極的に町議会と関わることで松野町の女性が行政に入り込む道を拓いたのだった。

町民から彼女へ届いたファンレターには「松野の女傑」とも書かれている。

次世代へのエール

2021年、滑床にあるホテル施設「水際のロッジ」の再建をきっかけに、県外から来た若者が集落に新風をもたらすようになり、徐々にかつての活気を取り戻してきた目黒地区。

地域への思いやりを体現し続ける梅香さんは、ここ数年、目黒地区で若者が企画したイベントにも毎回足を運んでいるという。「せっかく企画してくれるんだもの。その心を地域として歓迎して受け入れなきゃいけんと思うで?私は感謝しとる。若い子らが他所から来て目黒を盛り上げようとしてくれて嬉しいよ!これからもっと地域を巻き込まんといけんと思うで」

山の中にある野いちごは、小さな粒を結集させ、虫や病気にも負けないたくましい実をつける。1つにまとまり自然の中を生き抜く野いちごのように、地域でお互いに支え合い、寄り添い合って生きていくことの大切さを、彼女はわたしたちに教えてくれた。

取材高橋和佳奈(左)と河野梅香(右)

取材・ライター / 高橋和佳奈
編集・撮影 / 井上美羽

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