RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.27
人徳に溢れた親子

ゲストハウス
滑床渓谷に上がる道中、『森の国の宿 ゲストハウス夢楽』と書かれた明るい黄色の看板を見る度、私はここでゲストハウスを営む優しさで溢れた2人の笑顔を思い出す。

今からちょうど1年前、ゲストハウスのお客さんとして一度泊まらせてもらった。
玄関のドアを開けた時、森由紀子さんと母の森キクミさんの2人が明るく歓迎してくれたことを今でも鮮明に覚えている。
リビングにつながる廊下には印象的な貼り紙があった。

『与えて減らぬ親切 与えて残る人徳』

この言葉に惹かれた私は、2人の背景に迫るべく、1年前温かく迎え入れてくれたゲストハウス夢楽に今回もう一度伺わせてもらうことにした。

滑床渓谷に上がる道中、『森の国の宿 ゲストハウス夢楽』と書かれた明るい黄色の看板を見る度、私はここでゲストハウスを営む優しさで溢れた2人の笑顔を思い出す。

今からちょうど1年前、ゲストハウスのお客さんとして一度泊まらせてもらった。
玄関のドアを開けた時、森由紀子さんと母の森キクミさんの2人が明るく歓迎してくれたことを今でも鮮明に覚えている。
リビングにつながる廊下には印象的な貼り紙があった。

『与えて減らぬ親切 与えて残る人徳』

この言葉に惹かれた私は、2人の背景に迫るべく、1年前温かく迎え入れてくれたゲストハウス夢楽に今回もう一度伺わせてもらうことにした。

リビングでほっこりと

この日はリビングに入ると、おでんの美味しそうな匂いが漂ってきた。
「ちょっと食べる?」と由紀子さんは大きい鍋からしっかりと煮詰まった具材を1つ1つ丁寧によそってくれる。

ゲストが来た時も2人で手分けして作った手料理を振る舞い、いろんな会話をしてみんなに喜んでもらうのだとキクミさんは楽しそうに話す。
「今でも友達を家に呼んで食べにきてもらうんやけど。小さい頃からね、おままごとで菖蒲の葉を昆布に見立ててみんなに振る舞ったりしてね。だからあの頃からこういう仕事がしたかったんやろかって思うんよ」

目黒で生まれ育った、現在87歳のキクミさんは、戦時中でも持ち前の社交性で広い交友関係を持っていた。
「私、こっちに疎開してくる人らが好きでね。一番最初に友達になったんよ。食べ物もないけん、内緒で少しだけお米あげたりしてね。何かしてあげるんが好きなんよ」

キクミさんは幼い頃から人々の受け皿のような存在だったようだ。

苦労の先にある優しさで

20代手前で結婚したキクミさん。

旦那さんが営林署(国・公有林の管理・経営にあたった役所)に勤めていた為、地域の林業が衰退した頃は、その日食べることで精一杯なほど経済的に苦しい日々が続いていたという。

江戸時代の思想家、二宮尊徳が説いたキクミさんのお気に入りの言葉がある。

『天つ日の恵み積み置く無尽蔵 鍬でほり出せ鎌でかりとれ』

「恵みものは沢山あるから、鍬や鎌を使ってでも、なんとしてでも絶対自分のものにせよってこと」と、言葉の意味を教えてくれたキクミさん。

苦労を乗り越えてきた彼女の人生経験そのものが、この言葉と重なるのだという。

「大きな商売もしてないし、お父さんの腕1本でお金を貯めてきてね。子供3人養って、米も作って家も建ててね。ほんとうに苦労した」

「そんな時代もあったんやけん、今はみんなを助けてあげなきゃいけないね」と、キクミさんは優しく微笑む。「自分らも難儀しとったけんね」と、由紀子さんも当時を振り返る。

彼女は京都のバスガイドやタクシーの運転手をしていた経歴を持つ。

気付いたら人と関わる仕事に就いていたという彼女は、自分が幼い頃に苦しい経験をしたからこそ、人に対して何かを与えたいという精神が根付いているのだという。

心に残り続ける場所

2人がゲストハウスを始めたのは7年前。

開業のきっかけは、滑床渓谷でのキャニオニングの人気が出てきたことで宿泊場所の需要が高まり、長年にわたり集落内の新聞配達を担当していた森家に依頼が来たことだった。

毎朝の新聞配達とゲストハウスの両立は大変である。

目黒集落の手前に通っているトンネル工事や滑床渓谷国立公園内に位置するホテル「水際のロッジ」建設の際、大工さんが半月以上滞在したこともあった。

「お弁当持たせたりしてね。長期で大変やったんやけど、なんか帰ったら寂しくてね」と、当時を思い出しながら笑い合う2人が、過去に泊まったゲストからのメッセージが書かれた1冊のノートを見せてくれた。

『家族団欒』『元気をもらった』『楽しい食事』など、ゲストからの温かい言葉が綴られたページを由紀子さんは楽しそうに見つめる。

「こんなの送ってくれたんよ。この女の子が本当に可愛くてね」と言って見せてくれたのは、宿泊した家族から後日送られてきたというフォトスタンド。

2人の親切が、ゲストからの言葉や贈り物になって2人の元に返ってくる。
まさに、『与えて減らぬ親切 与えて残る人徳』なのだ。

今までずっと人に優しさを与えてきた由紀子さんとキクミさんの笑顔には、周りにいる人を自然と幸せな気持ちにさせる力がある。
一度会えば、常に明るく寛容な2人の人徳に惹かれることに違いない。

現在、感染症拡大と新聞配達の事情によりゲストハウスは休業中だが、今まで『田舎の優しさ』という言葉では足りないほどの家族のような温かさで迎え入れてきたゲストハウス夢楽には、由紀子さんが作ってくれたおでんのように具沢山でほっこりとする思い出が詰まっている。

ライター・撮影 / 高橋和佳奈
編集 / 井上美羽

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