「今日は何しよるのー？」

新型の青のバイクに乗り、爽やかな笑顔で声をかけてくれるのは、池本良大さん（いけもとよしひろさん）。
森の国の郵便屋さんだ。

松野町内の山深い場所にある目黒を含めた3つの地区に、18年もの間、毎日のように郵便配達をし続けている彼は、地元のおじいちゃんおばあちゃんからだけでなく、新しくこの地域に住み始めた人からの信頼も厚い。

毎日80キロもの距離をバイクで駆け巡る池本さんが、この日森の国での暮らしの楽しみ方を教えてくれた。

配達の域を越えて

今からおよそ1年前に、茨城からやってきた私は目黒地区の古民家に住み始めた。

縁もゆかりもなく、知り合いも少なかったこの町に1人で住み始めた初日、池本さんが配達中に声をかけてくれた。

初対面ながらも、古民家に残されていた大きな家具の処分方法や、田舎ならではの害虫対策を丁寧に教えてくれたのを覚えている。

「こんなに色んなことを教えてくれる郵便屋さんっているんだ」と、都会育ちの私はこの時初めて田舎の温かさを感じたのであった。

それからというもの、外からバイクの音が聞こえると、私は窓から顔を出して池本さんに挨拶をするのが日課となっていた。

彼はよく、自身がSNSに投稿した写真を見せながら森の国の暮らしの楽しみ方を教えてくれる。

家の庭で飼育している烏骨鶏（うこっけい）や四季折々の田舎風景、松野町の山に入って採取した筍や松茸の写真は、充実した日本の田舎生活を物語っている。

「都会から来られた人にはね、ちょっとでもこっちの楽しい生活を教えてあげたいんよね。」
新しく越してきた住民に郵便を届けた際に話が弾み、一緒に松茸採りやイカ釣りに出かけたこともあるそうだ。

「郵便の仕事もしてるし初めてこっちにきた人とは喋るやない？」と、にこやかに話す彼が教えてくれるのは、田舎の楽しい生活だけではない。

「配達中に、移住してきた人がここに新しく家建てたいって言ってるのを聞いて知り合いの業者を教えてあげたら、気が合ったみたいで。そこから目黒に家が建ったりね。」

配達中に人と人を繋ぐことは顔の広い彼の得意技だ。

自身の配達区域に新しく住み始めた人を助けたことは幾度もあったという。

「この町に越してきた人は周りにどんな人がおるか分からんし、初めての人は心細いやない？だから助けてあげたいなと思うんよ。元々自分が人と話すのが好きってのもあるんだけど、郵便配達やってるから、住み始めた人にとっては一番話しやすいかなと思って。」

若い頃から長年にわたり営業の仕事に就いていた池本さんは、配達員として働く今でも、周囲とのコミュニケーションや人脈を大切にしていることが分かる。
配達の域を超えた関わり方をしてくれる池本さんのような郵便屋さんは、人の出入りが活発で、田舎の暮らしに魅力を感じた若者が集まる目黒地区にぴったりだ。

心はずっと若いまま

目黒地区の住民は誰もが知る存在である郵便屋さんの池本さんだが、自身は子供の頃から松野町内の吉野地区で暮らしている。

「吉野と比べても、最近目黒は若者が増えて活気が出てきた気がする。若者と話すのも好きなんよ。話せば新しいものが入ってくるやない。」

この日が初対面だった水際のロッジのインターン生とも、自身のインスタグラムの話題で一瞬にして打ち解けてしまう池本さん。

新しいものを意欲的に受け入れようとする彼の姿勢は、とても65歳とは思えない。

「バイクで日本一周してる若者とかをSNSで見てるんだけどね、やっぱり憧れるのよ。自分も同じようなことやってみたいなーって想像するだけでも楽しい。もう歳だし日本一周はさすがに無理かなとも思うけど、夢持っとったら楽しいやない。心はずっと若い頃と変わらないんよ。」

「やっぱり何もしとらんかったらつまらない！」と、スキューバダイビングや釣りなど複数の趣味を持ち、年齢関係なくアクティブに生きる彼の話を聞いていると、私も活力が湧いてくる。

森の国の郵便屋さんとして目黒を駆け巡る池本さんは、新しくこの地域に関わる人たちを笑顔で迎え入れ、関わりを楽しんでくれる。

都会では考えられない森の国の郵便屋さんとの交流。

目黒地区でバイクの音が聞こえたら、青と白のバイクに乗った池本さんを探してみよう。

今日はどんなことを教えてくれるのだろう。