RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.33
100年先に繋ぐ藍

藍染師

桜の季節が終わり、森は徐々に新緑に色づき始めた4月中旬。

目黒にある藍工房「UTA indigo children」の前には藍の苗たちがずらりと並んでいる。

「あっちの葉の色とこっちの葉の色は違いますね。種類が違うのですか?」という問いかけに、「種類は同じで、育苗に使った土が違うんです」と答えるのは、清水裕太さん。広島県福山市出身の彼は、2021年に松野町目黒集落に移住をした。今は水際のロッジのホテル支配人を務めながら、藍師・藍染師として自身の工房を持ち、無農薬、無科学肥料での藍の栽培、天然の材料で染める灰汁発酵建てでの染色を行っている。

国内で数少ない藍染師の中でも、自然栽培で自ら藍を育て、染料を作っている人はごく稀だろう。今年からは、昨年のタデ藍の種を自家採取して育苗している。

「今年は乾燥葉で300キロを作ることを目標に頑張っています。300キロあると、発酵の熱も高くなり安定していくんですよね。畑なくしては藍色はできません。実は染める工程よりも、染料を作るまでの方が難しいんです。だから農が大切なんです」

藍は、3月上旬から種を蒔き、7~8月にかけて収穫する。その間、うまくいけば3回刈り取れる。一番狩りの葉の色素が一番多くて2番3番ってなることに少しずつ色素は少なくなる。また、育苗期間に過保護に水をやりすぎると畑に定着してから自分で水を探しに行かなくなるため、極力水やりをしすぎず、枯れないようにすることが強い苗を作るポイントなのだという。

蓼藍は、雨、風、害虫など彼らにとっての命の危険に対応するために、葉の中にインジカンという色素を体に蓄えている。人間が化学肥料を使って栄養を施すのも良いけれど、彼は、できるだけ自然に近い環境で育てることでその土地にしか出せない藍色が出せると思っているため、あえて化学肥料は使用しない。

「これはヨモギ染めをしたものです」と言って見せてくれたのは、シルクと綿麻で実験的に染めたもの。「飛鳥時代には、上流階級の人たちは鮮やかな紫や青色の着物、農民たちはこうした黄色がかった野良着と呼ばれるものを着ていて、色で階級や暮らしがわかるようになっていたようです」

藍染は、他の草木と染めるメカニズムが異なる。草木染は、シルクのような動物性の繊維タンパク質には染まるが、綿麻のような植物性の繊維には染まりづらい一方で、藍染は液中の微生物の働きにより酵素を酸化還元することで発色するので、天然の物であれば染める事が出きる。※どちらも化学繊維には染まらない。

また、藍の色は色落ちがしにくく、糸を堅牢にする(丈夫にする)為、状態よく保管していれば100年くらい残る。日本は本来、直して使える事を前提としてものづくりがされていて、日本には先人達の残した知識や技術が、今も伝統工芸品として受け継がれているのだと、清水さんは説明する。

「日本には古来より八百万の神(あらゆるものに神が宿る)という自然崇拝(アメニズム)の考え方があり、100年使われた物には九十九神(つくもがみ)という精霊が宿るとも伝えられており、昔の人は物を大切に使っていました。僕たち日本人にはそういった文化を持っていて、その中で営みが脈々と続いていて今、自分達がいます。日が昇ったり、月が満ち欠けしたり、季節ごとに星座が移り変わったりと、時の流れや暮らしの中にそれぞれのルーツがあって。時の流れやそれを繋いできてくれた人に感謝しなきゃなと思うんです。」

UTA indigo childrenのロゴマークには、彼のこうした想いが詰め込まれている。

「ロゴの真ん中にあるのは自分の家紋で、周りを囲っているのは蛇。清水家は巳年が4代続いていて、蛇は自分のルーツだと思っています。また、蛇は再生・復活の象徴で、藍染の染めるたびに糸を堅牢にして生地を丈夫にすることや、染めるたびに生まれ変わるといった特性とも似ているなと思っています。そして、種からずっと自分で育てている藍は、自分にとっての子どもみたいな存在です。育てる上で学ぶこともあり、自分が育ててもらってるような感覚なんですよね。藍を育て藍に自分も育てられている。そうした想いをINDIGO CHILDRENという言葉に入れています」

自分で作り、使い、残り、つながる。そんな時空を超えた循環という彼の世界観が、藍という色を通じて表現されている。

「ファストファッションで手軽に服を買えることは悪いことではないですが、愛着を持って1枚を使い続けることで、その人に何か気づきがあるといいなと思います」

UTA INDIGO CHILDRENでは、藍染体験をすることができる。自分の使っている衣服を持ってきて、それを染めることのできる体験プランは、親子の旅の思い出作りにも大人気だ。(水際のロッジの体験宿泊プラン、またはinstagramアカウント(@uta indigo children)にてお申し込み可能)

「僕が染めたものを気に入って買ってもらうのも全然いいけど、人によって違うストーリーがあるから、自分で染めたTシャツの方が絶対いい。一緒に作って体験をしたことが思い出になって、それをずっと長く使ってもらえるようなものになったら嬉しいです」

これからここ、目黒でやりたいことを聞いてみた。

「今まではずっと1人でやってたけど、これからはこの森の国を拠点に仲間が増えてきて、ものづくりの循環の森ができたらいいなと思います。せっかく想いを込めて作った色だから、既製品を染めるよりも、誰か想いを持っている人たちが作ったものに色をのせていきたい。

僕は染めることができても、なにかを作ることはできないんです。色は、なんにでもなれるけど、単品だと何にもなれない。じゃばじゃばの液体を持っていても何の価値もない。目黒には、材料がたくさんあるので、それをどう使っていくか。この環境にあるものでいかに良いものを作るかが大事ですね。

この色を作った自分がいなくなっても、自分の作った藍色は残るもの。藍色を残すことでこの土地の営み、景観、歴史、文化、風土を残し、次の世代に繋がっていけば良いなと思っています」

撮影:Koji Watanabe

ライター:Miu Inoue

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