リニューアルオープンから3ヶ月、週替わりのサンドイッチや定番のレモンブリオッシュで、目黒地区の週末を彩っている森とパン。これまで全国を旅するタルト屋さんや、おにぎり愛に溢れた少女がやってきて、店頭でこだわりの1品を販売をしたこともあった。

森の国は、ここ数年の間で、全国の各拠点で挑戦をしている個性的な若者がやってくるようになった。今年の夏も、大阪府豊中市に店を構えるカレーサンド屋さんが食の価値を探索するべく森の国にやってくる。

お店を切り盛りするのは、現役大学生の陣内巧（じんのうちたくみ）くん（23歳）。明るい髪色と優しい博多弁が印象に残る好青年だ。彼は店を持ちながら、大学で料理サークルを立ち上げ、自ら代表を務めるなど、幅広く活動をしている。 

スパイシーな人生

陣内くんが店長を務めるカレーサンド屋さん「だらだらするだら?」は、彼が抱いたまちづくりへの興味からつくられた。

「コロナ禍になってから街を改めて見てみた時に、最寄りの飲食店とか近所の人たちについて何にも知らんなあ、街に住んでる感覚がないなあって感じて、『とりあえず街を知りたい』って気持ちから活動をスタートしました」

「まちづくりに関わろうとした時に、まずは自分が当事者になろうと思って。街の商売とか街のインフラを担うために、飲食店をやってみようと思い立ちました」

彼は、自身が店の立ち上げに携わったパン屋さんの食パンと、友人が作るスパイスカレーを組み合わせて「カレーサンド」を開発。2021年9月からカレーサンド屋として間借り営業を始めた。当時は100日後に豊中市内で自分たちの店をオープンさせることを目標として掲げていた。

しかし、ようやく迎えたプレオープン当日、それまでスパイスカレー作りなどの調理全般を担当していた料理長が、突然姿を消したのだった。

「代わりに自分が作らないといけなくなって、そこで初めて料理の大変さを知ったんです。お客さんに提供できる最低限のレベルになるまで毎晩必死にカレーサンドを研究する日々でした」

その後、陣内くんは令和の虎（YouTube番組）やクラウドファンディングで支援を募りながら知名度を上げ、なんとか現在の店舗のオープンにこぎつけた。
「壮絶な人生です」と笑いながら話す彼だが、何があっても挫けない心の強さには圧倒される。

「まず知ることから」

「1人でカレーサンドの研究をしてた時、全然料理が楽しくなかったんですよね。1人暮らしだと家に帰ったら当たり前にご飯がある環境ではないし…」
「もっと『食』をみんなで楽しみたかった」と語る彼は、今年の4月、自身が通う大学で料理サークルを立ち上げた。

「都会にいると、普段口にする食材に関わってる人たちの存在とか、食のありがたみを感じる余裕ってないんですよね。

やから今回の目黒訪問では、サークルのメンバーで農業に触れて、食材とかが自分たちのもとに届くまでの過程を知りたい。そしたら当たり前の食に対して、幸せとか楽しさを感じられるようになると思います」

「個人的には、目黒で食のありがたみを知って、お店のお客さんにそのバトンを渡せるようになりたい」と話す陣内くん。彼の展望はこれからも広がっていくのだろう。

 食のありがたみをサンドして

最後に、当たり前にある食の価値を探索するフィールドとして、大阪から遠く離れた目黒地区を選んだ理由を彼に尋ねてみた。

「元々、知り合いが目黒の古民家で暮らしているのをSNSで見ていて、いつか行きたいと思っていました。でも1番大きな理由は、現地で迎えてくれる人たちの人の良さがミーティングで伝わってきたからです」

今回のコラボ出店では、森とパンの食パンと、住民との交流で見つけた森の国の旬な食材を使った「目黒特製カレーサンド」含む3種類のサンドイッチを販売する予定。農に触れて初めて感じるであろう食の価値をカレーサンドで彼らがどのように表現してくれるのか楽しみだ。陣内くん率いる若き挑戦者たちによるスパイスの効いた1品が、森とパンで待っている。

ライター / 高橋和佳奈
写真提供 / 陣内巧（じんのうちたくみ）