RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.3
本能に従う

水際のロッジ支配人
水際のロッジの支配人を務める森里美さん。
最高のホスピタリティーを追求し続けてきた彼女は、水際のロッジで従業員教育をゼロから行いながら、現場に立ち、お客様をおもてなしする。
彼女は、2020年夏、現在水際のロッジ、アクティビティマネージャーの治彦さんと共に夫婦で森の国へ移住してきた。

水際のロッジの支配人を務める森里美さん。

最高のホスピタリティーを追求し続けてきた彼女は、水際のロッジで従業員教育をゼロから行いながら、現場に立ち、お客様をおもてなしする。

彼女は、2020年夏、現在水際のロッジ、アクティビティマネージャーの治彦さんと共に夫婦で森の国へ移住してきた。
当初は愛媛の山奥に移住してホテルの支配人となることなど、全くプランにはなかったという。

場所にも会社にも囚われない彼女の生き方を探るため、1時間にわたるインタビューを行った。

『視界を360度もて。』

初めてホテルの道に足を踏み入れたのは、ワーキングホリデーで勤めたカナダのホテルだった。そこでの仕事を通してサービスの魅力に気づき、日本へ帰国した。

初めて勤めたホテルで帝国ホテル出身の手厳しい日本人上司から言われた言葉が、サービスという職業の奥深さを知るきっかけとなる。

「基本フロントは、前、つまりお客様の方を見ているでしょ。カナダのホテルのゲストサービスデスクの背後はガラス張りになっていて、お客様が乗るツアーバスの発着が見えるようになっていたの。例えばそこでバスが何時に到着して、何時に出発するのか、などもロビーのお客様の状況を見ながら把握しておけって怒られて。『視界を360度もて』『お客様がどんな意図を持ってそこにいるのかを理解して動け』ってずっと言われていたの。」

「そこでは毎日叱られながら必死に働いていたな。その後帰国して、やっぱり自分はホテルの仕事が向いているかもと思って。お客様の思っていることを察知して動く、というのがすごく好きだ、ということに気がついたの。」

その後も国内外大小様々なホテルを経験し、自身を鍛えながら自分の好きなサービスの最高峰とは何かを追求し続けてきた里美さん。

「お客様が消化されていくのが嫌だった。」
「ただ来て帰っていくだけのホテルが嫌だった。」

こう感じた彼女は、小さなホテルに魅力を感じ始める。
そして屋久島の最高級ホテルで、ホテルサービスの経験と質を磨き上げたのち、
一組一組のゲストにそっと寄り添える環境を求めて、2020年7月、水際のロッジにやってきた。

雨が降って残念だと思うのではなく、その雨の美しさをみてほしい

デジタル社会となり、旅行先でもスマートフォンやパソコンを手放せなくなっている人も多い。
「スマホをやめなさい」と禁止するのではなく、それより楽しい、素晴らしい世界を見せることが私たちの仕事なんだと里美さんは語る。

「紅葉が見れなくて残念、ではなく紅葉ではない時期でも楽しめる景色がたくさんあることを知ってもらったり、台風で出かけられなくても、ひどい雨だね〜とお客様と一緒に窓から雲が移動していく様子を眺めてみたり、雨が降って残念だと思うんではなく、その雨の美しさを見てもらいたいと思う。」

一度自然に向き合ってみると、物の見え方や考え方も変わっていく。
その向き合い方を伝えることは、人にしかできない。

「ただのトマトを見せるのではなく、このトマトは誰がどうやって作ったかというストーリーを話すだけで美味しさは倍増するでしょ?そこにあるものの価値を伝えてお客様と共有することがサービスであり、AIには代替できないこと、人じゃないとできない仕事の一つだと思う。」

移住を繰り返し、崩れた『常識』

インタビューを通して、「あなたが思う常識は、他の世界では常識ではない」という話が何度もでてくる。
「世界中の文化を見てきて、いろんな価値観を知った時に、自分が思っている価値観なんて、自分だけのもので、世界から見た私ってなんてことなかったの。」

「日本で生まれ育った自分は、今まで自分の主観で物事をみていたけど、国を出ると自分が外国人でマイノリティーだった。自分が思っている常識が全部なくて、今まで見えていた世界がばーっと崩れた。」

「 だから、この世の中なんでもありだな、と思って。」

「自分があたり前って思っていることって、少し場所を変えると、全然違うんだよね。」

そのときの自分の感性に一番触れる場所を選ぶ

日本では北海道から屋久島まで、さらに国外でもカナダ、サイパン、ニュージーランドなど様々な土地で、様々な会社で経験を積んできた彼女は、ものすごく自由だ。

「私は縛られるのが嫌で、ずっとこの場所にいなきゃいけないと思えない。ずっと自由でいたくって。
自分が面白いと思ってやりたいとおもったことをやりたいでしょ?
周りからも、両親にも反対されたこともあるけど、自分で選んで自分で決めて、自分で生きてきた。」

「物事が安定してくると、どこかにもっと楽しいことがあるんじゃない?と不安になるから、拠点や環境をどんどん変えてきたの。」

「そのときの自分の感性に一番触れる場所を選んできたんだ。」

本能の赴くままに人生を選択する彼女の話を聞いていると、何かの縛りから解放される気がした。

「眉間にシワを寄せてホテルにやってきたお客様が、そのシワがなくなって笑顔で帰っていくことが私にとって最高の喜びなんだ。」と語る里美さんは今日も、森の国にやってきたお客様の心を満たすためにフロントに立っている。

ライター/井上美羽

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