RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.19
目黒マニア

松野町役場職員
松野町目黒の文化財担当として働く亀澤一平さん(通称亀ちゃん)は、目黒に足繁く通い、目黒の歴史を住民から聞きながら、松野町目黒の集落や地域の歴史、文化を調査している。地元でもなく、住んでいるわけでもない彼だが、「目黒マニア」と呼ばれ、目黒を愛してやまない・・・。
なぜ彼は、これほどまでに目黒の思いが強いのか、彼の思いの源泉を探るインタビューを行った。

今回お話を伺ったのは、松野町教育委員会の学芸員として町の文化的景観を守る活動をしている亀澤一平さん(通称亀ちゃん)。

文化的景観とは、人間と自然との相互作用によって生み出された景観のことを指す。令和3年10月の現在重要文化的景観として国で選定を受けている地域の数は、全国で71箇所ある。

宮崎県出身の亀ちゃんは、幼い頃から遺跡や化石などに興味を持ち、大学では考古学の道に進む。

「考古学って聞くと、恐竜とかマンモスの化石を発掘して調査して・・・というイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、考古学の本質は『人間の営みを明らかにしていく学問』なんですよね。人間との関わりを地球から探っていく。人が重要なんです」

松野町の文化財担当として働く彼は、目黒に足繁く通い、目黒の歴史を住民から聞きながら、松野町目黒の集落や地域の歴史、文化を調査している。地元でもなく、住んでいるわけでもない彼だが、「目黒マニア」と呼ばれ、目黒を愛してやまない・・・。
なぜ彼は、これほどまでに目黒の思いが強いのか、彼の思いの源泉を探るインタビューを行った。

松野町「森の国」に来るまで

亀ちゃんが森の国にやってきたのは10年前。大学卒業後、松野町役場職員として移住した。南予の人々は、おっとりとした九州地域の性格に似ているのだという。
当時、松野町では、奥内棚田の風景を守るという方針を立て、その手段として「文化的景観」の選定に向けた取り組みを行なっていた。

そして今、奥内と同じ様に目黒も国の重要文化的景観の選定に向けて3年前から本格的な調査が始まっている。そのきっかけとなったのは、南小学校の閉校だった。

「松野町には3つ小学校がありましたが、人口減少により子どもたちの数もすごく減り、小学校の一つが3年前の2018年に閉校になってしまいました」

学校がなくなるというのは、町のコミュニティの存続という観点においても大きな影響を及ぼす。その中で目黒を存続させていく方法の一つの策として、「文化的景観」が挙がったのだった。

「国の重要文化的景観に選定されることで、劇的に地域が良くなる、というわけではないけれど、住民が目黒の地域らしさを再発見する機会になると思います。『やっぱりこの地域ってこういういいところがあるよね』を再発見できるんです」

目黒の特徴は・・・

考古学を通してさまざまな地域の調査をしてきた亀ちゃんに、目黒の町の印象を聞いてみると、「目黒の方々は、ものすごくオープンだ」と話す。

「もともと、自分の中で、田舎は閉鎖的だというイメージがあったんです。もしかしたら松野町全体の町民の特徴なのかもしれませんが、目黒は割とよそものを受け入れてくれると感じていて。

昔目黒は国有林の事業が盛んだったため、歴史的にも集落の外から、目黒に人が入ってきている。町のお祭りなどを通して高知県と交流があったり、山を越えた宇和島からも人が入ってきたりで、交通の結節点ともなっていたようです。だから、外から来る人に対してあまり抵抗がないという印象を受けます」

地域住民と関わることの重要性

遺跡を発掘調査する考古学を行う上でも、地域住民との関わりは欠かせない。

目黒山形の風景や河後森城跡という遺跡だけを残せばよいのではなく、そこに住んでいる方の生業も守らないといけない。

「私の大学の恩師の先生はずっと、『地域があってこそ、遺跡や歴史が成り立っている。だから考古学の根底にある地域、地域に暮らす人々がすごく大事。そこを蔑ろにしてはいけない
』と言っていました。当時はあまりピンときていなかったのですが、仕事として町に向き合う中で、地域に入ることの難しさと重要性を改めて痛感しました」と話す。

「 日本国内の他の地域でも地方創生に力を入れている自治体は他にもたくさんありますよね。太陽光パネルや大型商業施設を地方に建てることで活性化を図っている地域もありますが、それが本当に正しいやり方なのかはわかりません。まずはその土地を知って、地域らしさを守ることが大事なのかなと。

そう考えると、やはり行政主導と、地域の住民とのコンセンサスの落とし所を見極める必要があると思うんですよね」

模索しながら

行政が考えている理想と住民の方々の現実の間にはまだ、大きなギャップがある。
そこをどのように上手く縮められるかが肝になってくると彼は話す。

「地域の活動って、答えがないじゃないですか。独りよがりになってはいけないし、かといって自分だけが飲めり込んで入っていくのも違う。

文化財の担当者はあくまでも黒子であり、住民が主体的に動くような環境を作っていかないといけないのかもしれません。
その辺のウエイトのかけ方や、自分以外の巻き込み方、関わり方を模索しながらやっています。難しいですが、まずは地域に入ってやってみるしかないです。高齢化が深刻化して、地域で新しいものを生み出すことも難しいのですが、その中で一緒にできることを模索して、自分の動きが町にとって何かのきっかけになれば良いと思います」

本気で地域と向き合う

遺跡は数百年、数千年経っても動かない。例えば数ヶ月、手を抜いて放っておいても変わらない。一方で人間は1日、1週間と顔を出さないと感情も変わってしまう。だからこそ、文化的景観の取り組みはより繊細だ。

「お城や山などの遺跡は、不動産なので、語りません。でも文化的景観は、動体・・・つまりそこに暮らしている『人』も文化財として捉えています。人は語るし、生きています。サボっていたら怒られるし、顔を出さなかったら忘れられてしまいます。
文化的景観をやるということは、人々の生活までもを範囲にしているので、より切実で、中途半端じゃダメだな、と思うんです。

調査をすることは、地域と関わるということ。中途半端なことはできないし、その地域と一生関わっていくくらいの覚悟を持たないとダメだなと思って取り組んでいます

研究者として、調査員として、そして目黒を愛するものとして、今回熱心に話してくれた亀ちゃんの想いは熱い。答えのない地域調査の最適解を模索しながら、彼は今日も町の未来を考え続ける。

ライター/井上美羽

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