RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.22
森の自給自足生活

目黒住民
この日は滑床渓谷の麓にあるお家を訪れた。大自然の山の中に一軒のお家が佇み、まるでハイジの村のような世界が広がる。
そこで筆者が見たのは、ワサビが育てられるほどの綺麗な小川が流れ、無農薬で自家栽培した野菜や、大自然を駆け巡る鶏の平飼い卵、調味料も無添加のものを使用し、薪ストーブで暖房を賄うという、自給自足の丁寧な田舎暮らしだった。

「わたしね、ずーっとこういう生活がしたかった」
そう話すのは、滑床渓谷の麓で自給自足の生活を送っている山田淳子さん。

この日は滑床渓谷の麓にあるお家を訪れた。
大自然の山の中に一軒の家が佇み、まるでハイジの村のような世界が広がる。

ここで暮らしを営む山田さんご夫妻は滑床渓谷の水が空気も綺麗なこの土地に惹かれ、15年ほど前にこの土地に移住した。

田舎の自給自足を求めて

ワサビが育てられるほどの綺麗な小川が流れ、無農薬で自家栽培した野菜や、大自然に囲まれた庭を走る鶏の平飼い卵を食べ、エネルギー源となる薪ストーブで暖をとっている、自給自足の丁寧な田舎暮らしを実践する山田さん。

家に構えた薪ストーブは、家を温めるだけでなく、パンやピザ、さつまいもを焼くなど料理をすることもできる。燃料となる薪は家の周りの木を伐採し、薪割りももちろん自分で行っている。

「 私は自由は田舎にあると思っているし、ここに居住させてもらって『ここは宝の山だな』って思う。自然が多くて、人間らしく生きていけるところだし、都会の見えないルールにも縛られないからね」

大きな庭を駆け巡る鶏(名古屋コーチン)は食用ではなくペット
ガスも電気が止まっても薪ストーブさえあれば山中では生きていける

移住の決意

鹿児島県出身の淳子さんは、子どものころも、山の中で自給自足のような生活をしていたという。父親からは勉強より、今日生きる術を教わっていた。

その後愛知県の都会に引っ越し、50年住み、定年後の移住先として、旦那さんの趣味である石膏(せっこく)を育てるのに良い環境を探していたところ、知り合いからこの土地の紹介を受けた。

家の裏側には滑床渓谷からの清流水が流れ、ワラビが自生している

「人生ピッパの法則ってあるでしょう。 いいなと思ったら何があっても手に入れるべきなのよ。ここにきてみたらもうドンピシャだった。人生100年と言われる時代、残り50年を見知らぬこの土地で住もうと思ってね」

縁もゆかりもない松野町目黒に夫婦二人で移住するという一世一代の大チャンス。しかしその決断になかなか踏み切れない旦那さん。そんな彼を説得したのも、淳子さんだった。

「『この土地が良いと思って、土地を分けてくれる方もいるのならば、何を迷う必要があるの?海外にいくって言ってるわけじゃないよ。四国の松山の端っこの松野町の目黒に来るんだよ。みんな日本語喋っとるんだよ』って言ったんよ。」

直感と自身の感性に忠実な彼女の行動力には底知れないパワーがある。それは、46歳で乳がんを患い人生のどん底から這い上がってきた経験が彼女を強くしたのかも知れない。

病気を機に健康を考える

約20年ほど前、彼女は医者から15年の余命宣告を受けた。

「私は乳がんを患ってから5年くらいホルモン剤を飲んでいたの。その間、80キロの巨体で鬱になってしまって、外に出ることができなかったのよ」

当時、子どもやご主人を学校や仕事に出した後は、家のソファでごろごろ寝て、15時になったらいやいや台所へ行ってご飯を作る、という生活をしていたという。ホルモン剤を飲み5年が経ち、一向に治らない病気と戦いながら、うつ病になってしまったのだった。

「家族にも迷惑をかけてね、もう何のために生きているかわからなかった」

そんな彼女はある研究医の講演会をきっかけに、人生をやり直すチャンスを得た。周りの友人や担当医、そして『健康』について教えてくれた研究医との出会いから、薬に頼らない方が良いことを知り、崖っぷちの人生をやり直すことができたのだった。

「私はね、人に助けられてきた人生だったのよ。周りの人に、いろんなことを気づかせてもらったの」

一度身体を壊したからこそ自分自身の健康について深く考えた淳子さんは「健康は何よりの宝」だと語る。

無農薬の自家栽培の野菜たち。籾殻などで土づくりをしている

さまざまな困難を乗り越え、森の国に辿り着いた淳子さんは、「人が人らしく生きていくには田舎がいい」のだという。

これからは自然が見直される時代がきますよ。田舎を目指して引っ越してくる人も多くなると思う。こういう自然が求められてくると思う」

都会からやってきたからこそ気づく田舎の良さはたくさんある。都会から一歩身をひき、自分の好きな土地で、自分らしい生き方を実践する彼女の姿から学ぶことが多くあると感じた。


ライター/井上美羽

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