RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.23
ビール売りの少女

SELVAGGIOサービス
衣食住の中では『住』環境に興味があって。旅行行く時に一番長い時間を過ごすのは寝るところで、そこでお客様と濃い時間を過ごせたらいいと思ってホテルフロントがやりたいと思っていたんです。しかし、いざここにきてみると、2時間のコース料理とともにお客さんと濃い時間を過ごせることを経験しました。レストランの方がお客さんと一気に距離が縮まることを感じて、今はレストランサービスにすごくやりがいを感じています。

「今日は森の中でピッツァを食べたい気分だ!」
そんなふうに思ったことはあるだろいか。いや、そのようなシチュエーションを想像することすらあまりないかもしれない。

森の国の滑床渓谷の大自然の山道を上がると、そこには1軒のロッジが現れる。新緑の春から紅葉シーズンの秋までは特に観光客で賑わい、レストランの前には行列ができる。

四国イチとも呼ばれ、遠方からもわざわざ食べにくるお客さんがいるほどのピッツァを、ここ滑床渓谷の大自然の環境の中で提供しているのが、SELVAGGIOだ。

SELVAGGIOの門を叩くとサービススタッフの中野さんは笑顔で出迎えてくれた。

「食べに来る」ではなく「会いに来てくれる」が嬉しい

都内から1年前に移住をし、水際のロッジのレストランSELVAGGIOでサービスを担当する中野さん。

料理を説明する中野さん

「お土産を持ってきてくださったり、一緒にご飯に行ったりするような関係性のお客様もいらっしゃいます」
より密なコミュニケーションを取ることができるのも、ゆったりした山奥の営業ならではなのかもしれない。

お客様と濃い時間を過ごせたら

もともとはホテル業界に興味があり、フロントスタッフとして入社の予定だったという中野さん。
「衣食住の中では『住』環境に興味があって。旅行行く時に一番長い時間を過ごすのは寝るところで、そこでお客様と濃い時間を過ごせたらいいと思ってホテルフロントがやりたいと思っていたんです」

「しかし、いざここにきてみると、2時間のコース料理とともにお客様と濃い時間を過ごせることを経験しました。レストランのほうがお客様と一気に距離が縮まることを感じて、今はレストランサービスにすごくやりがいを感じています」

夏はお子様連れのご家族で来られるお客様も多く、お子様と接する機会も多い。

「ある日、チェックアウトの時に3歳の男の子が自分のことを呼んでくれて、走って抱きついてきてくれたんですよね。それがすごく嬉しかったです」

好きなもので仕事をする

クラフトビールが大好きな彼女は、お休みの日に、四国内のクラフトビールを飲みに行くのが楽しみだという。好きなものを仕事にも活かすことで、より仕事の幅が広がる。

「今は、クラフトビールの仕入れなども任せてもらえています。自分で四国のブリュワリーを回って、ブリュワリーやクラフトビールを専門に扱っているバーに行ったり、新しいクラフトビールを試飲してお店にラインナップしたり、お客様とこれ美味しいですよね、と話したりするのも楽しいです」

水際のロッジの宿泊プランとして、クラフトビールに焦点を絞ったプランの企画も行った中野さん。

「プラン作りを任せてもらえるのは嬉しかったし、視野が広がりました。今まではレストランでの2時間の中でどれだけお客様に楽しんでもらえるかを考えていたのですが、このプランを通して、レストランサービスだけでなく、お客様の滞在全体のことまで考えられるようになったんですよね。
『外のテラスでアクティビティ終わりに飲んでもらえたら最高だなあ』とか、『お部屋でゆっくり飲んでもらうならこのビールがいいな』とか『ここのビールを飲みに来てくれたらいいな』と想像したり。

また、父の日などに合わせて、暖かい日に外で飲みたくなるようなビールのプロモーションを出したいです」

田舎のホテル接客業の魅力

前職は事務の仕事をし、フランスで語学留学を経験した彼女がなぜ、愛媛の限界集落のホテルで接客業をおこなっているのだろうか。

「大学時代のアルバイトがずっと接客業だったことが原点かな。仕事を辞めなければいけないタイミングで、事務の仕事を続けていくのか、接客業の仕事に戻るのかを考えた時に、接客業の道に進もうと思ったんですよね。事務の仕事も楽しかったけれど、性に合っていなかった。

接客と言っても色々あると思うのですが、自分は旅行好きで、その時にどこに泊まるかに重きをおいていたから、「ホテル」が選択肢に入ってきました。

その中でも、東京の100室などのビジネスホテルではなく、客室数の少ないところで密度の高いお客様とのコミュニケーションをとりたかった。だから、たった10室の水際のロッジは、時間の流れもゆっくりで、お客様との距離がとても近いことが魅力で、良いなと思いました。
従業員とお客様という関係ではなくて、もっとフランクに話せるようにもっていくことを心がけています」

『できないこと』は何もない

都会生まれ都会育ちの彼女だが、都会に戻りたいという思いはないという。

「最初は3年くらいかな、と思っていたけれど、今は3年で離れるつもりはあまりないと思っています。田舎の限界集落の山の中だけど、ここで『できないこと』というのはなくて」

水際のロッジや森の国で働く中でも、さらに仕事の幅を広げられる気がすると話す中野さん。

「今まではホテルとレストランの仕事の区切りがはっきりありました。そこをもうすこしぼやけさせていきたい。元々レストラン業界で働いたことがなかった自分だからこそ、レストランの外にも目を向けて手を出しやすいと思って。例えば自分が少し手伝うことで他の人の肩の荷が軽くなるのであれば、そこをサポートしていきたいと思います。」

レストランサービスに関してはほとんど未経験だった彼女は、SELVAGGIOで今やエースとして働いている。

「ゆくゆくはレストランサービスもフロントもどっちもできる人になりたい」と語る彼女は1年前に来た時よりも、イキイキとしていた。

ライター/井上美羽

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