RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.25
藍染xホテル

水際のロッジフロント
「藍がないのならば、自分で作ればいい」
広島県福山市出身の清水さん(31)は、ホテルスタッフとして働く傍、朝と休日は藍農家として畑に出向く。
彼は、実験と失敗を繰り返しながら、自然農法での藍作りに挑戦し、自身のデニムブランドを作ろうとしているのだ。

「なぜ爪が青いのですか?」水際ロッジのフロントスタッフで接客を行う清水さんはお客様によく尋ねられる。

「実はですね・・・」彼の爪の青さには彼の裏側の顔が隠されている。

広島県福山市出身の清水裕太(しみずゆうた)さん(32)は、ホテルスタッフとして働く傍、朝と休日は藍農家として畑に出向く。

彼はここで、藍を育て、自身のデニムブランドを作ろうとしているのだ。

■藍染デニムを作っちゃえ

もともとアパレルで12年働いていた清水さんはいつか自分のブランドをつくりたいという漠然とした夢があった。2年前にサン・クレアに入社し、宇和島オリエンタルホテルでフロントスタッフとして働いた後に、デニム発祥の地であり彼の地元である福山市に戻ろうと考えていた。

そんな時細羽社長から「森へおいでよ」と声がかかり、今年の春から森の国へ移住を決断。古民家を借り、畑を始めた。

「せっかくここに来るならホテルスタッフで働くだけではなく他のこともやりたいと考えた時に畑が思い浮かびました。ただ自分は野菜を育てるのには興味がなかったので、藍づくりをやろうと思い立ちました」

「福山市でデニムに関わる仕事をやろうと思っていたけど、ここで染料から作って、藍染デニムを作っちゃえばいっか、やってみるか!」と思い立ってから、早3ヶ月。

既に地元の方に借りた彼の畑には藍の芽が大きく育っている。

藍生産の現状

現在流通しているデニムジーンズのほとんどは、石油を原料とした化学合成染料のインディゴが使用されている。

一方彼が挑戦するのは植物の藍の色素からつくる藍染めのデニムジーンズ。藍を種から育て、藍の葉を刈り取り、水に漬け、100日ほど発酵させてできた「すくも」という天然染料を使用する。

国内においては江戸時代に特に藍生産が盛んになり、作業着から高級衣装まであらゆるものが藍染めになった。しかし、明治時代後半頃からインドでより安価で安定した色が出る合成染料が作られるようになると同時に天然藍の生産量は減少。

第二次世界大戦に入ると藍生産よりも食糧生産を優先されるようになり、藍は一時栽培禁止の作物になった。

藍の葉から採る天然染料が出回っていない理由は、手間がかかること、色や生産量が安定しないことが大きな理由だ。

藍生産量が最も多い徳島県でも、藍の専門農家は5軒ほどしかない*。染めの仕事をしたい人は多いけれど、染料がなくてできないのが現状だという。
*阿波藍製造技術保存会の加盟農家

■土壌再生と無農薬栽培チャレンジ

「藍がないのならば、自分で作ればいい」

彼は、実験と失敗を繰り返しながら、自然農法での藍作りに挑戦している。

「普通の藍農家さんがやっていることと、ここでやろうとしていることは若干違っていて。
藍農家さんは、藍を染料にしないとお金が入らないから、多く作ることが大事ですよね。だから、無農薬や除草を行わないことで、生産量が減るリスクを恐れています。

また本来、藍は乾燥に強いため畝もつくらず、さらさらした砂場のような土地で育てることが多いという。ここはもともと田んぼだったので粘土質が強い土だが、彼はあえて肥料を与えず土着の土で始めている。

「ここは土壌の再生も目的の一つなので、そのままの土地を生かして、無農薬でどこまで育つか実験して失敗を重ねながら藍生産を行っています。」

「本当は苗ももっとたくさんできる予定だったんです。これまでも半分は失敗してる。一時期、水をやったら全部倒れてしまうほどひ弱な時もあったんだけど、徳島の藍農家さんに相談をしたら、お日様が足りてないからだと教わり、ちゃんと日が当たるようにしたら、これだけ大きくなりました」

やりながら学ぶ。失敗もしながら正解を作っていくのが彼のスタイルだ。

「雑草が藍よりも大きいと日光を遮ってしまったり、藍に他の草が混ざってしまったりするから、除草してあげる方がいいんだけど。こいつらはこいつらで、保水や土を強くする役割があるからあえて残している場所もあります。タネをそのまま蒔いている柵の外のエリアは何にも手を加えていない完全に自然農法。肥料も一切与えていないし除草も全くしていないけど、これはこれでどう育つかなって楽しみですね」

茎が赤いと日があたっている証拠

■藍への愛

雑草と藍の葉っぱが混在していると、どれが藍なのかわからなくなる。

そう話すと、清水さんは子どもを見るような目で藍を眺めて言う。
「わかるんだよね。こいつだな〜とかこいつじゃないな〜とか。」

葉が大きくなった7月ごろに、1回目の葉の刈り取りが行われる。その葉を乾燥させ、水に漬け、発酵させ、染色液を作る。

まだまだ染料ができるまでの道のりは長いが、今後の彼の藍づくりの可能性はますます広がる。

「自然農法と藍栽培のマッチングがどうなるかわからないけど、今年は色々やってみようと思っています」

藍染ブラザーズ。左は大学生インターンの津田くん。度々畑作業のお手伝いにきてくれる

現在は彼と共に藍を育てる仲間を募集しているのだそう。

ライター/井上美羽

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