AMBITION

森の国 Valleyの挑戦
2022.07.18

『大人の余白時間』

#Event#夏#新しい暮らし

年齢、肩書き、本名、時間、ルール、マナーを全て捨て、まっさらな自分に還る1日。

大人になって、自然に触れ合う時間を取れている人は一体どのくらいいるのだろうか。「大人の余白時間」をテーマにした「MEGURU CAMP」。企画担当者の渡辺ゆおさん(以下渡辺さん)は、大人にこそ五感を解放する時間を必要だと感じたという。

今回、大学3年生の彼女が企画したMEGURU CAMPは、愛媛県松野町滑床渓谷の大自然を舞台に、5月22日から6月26日の毎週日曜に計6回開催した。(うち一回は雨天のため旧松野南小学校内で開催。)

「めぐる」という言葉には自然を「めぐる」、目黒を「めぐる」、自然の恩恵が体内を「めぐる」など、複数の意味が込められている。毎日自宅と職場の往復で日々追われている人、家事や育児に追われて自分の時間がなかなか取れない人、感情をどこかに置いてきてしまった大人に向けた1日限りのキャンプ。

肩書きを預かる時間

11時、チェックインが始まる。渡辺さんからMEGURU CAMPのルール説明が入る。

 チェックインの説明をする渡辺さん(右)と参加者(左)

 「時計とスマートフォン、そして名前をお預かりします。その代わりにご自身でキャンプネームをつけていただきます。」

本キャンプ内では本名や肩書きは明かさず、その代わりにキャンプネームを付与する。
キャンプネームというのは、そのキャンプで使用するもう一つの名前のことで、キャンプネームをつけることで普段とは違う新しい自分としてキャンプを過ごすことができる。
自分の特徴や好きなものから連想してつけれられたキャンプネームの由来を参加者同士が語ることでさらに会話が生まれるという仕掛けも面白い。

自然を「知っていく」時間

MEGURU CAMPの内容は各回異なる。
大声を出しながら体を動かしたり、ネイチャービンゴの紙を受け取り、ビンゴの紙に書かれた内容(例えば、「蛇に会いにいく」「大声で歌ってみる」など)に挑戦する。
ここで、自然に触れることで自然を「知っていく」。今回、MEGURU CAMPで使用したネイチャービンゴでは、木を抱きしめたり、土を掘ったり、裸足になって歩いてみたりすることで木の匂いや大きさ、土の色や匂い、水の冷たさを知ることができる。

木に触れ、木の大きさ、温もりや匂いを知る

焚き火で調理する時間

みんなで自然を楽しんだ後は食事の時間だ。

最初から食事が用意されているのではなく、自分達で焚き火を起こすことから始まる。火を起こすのは簡単ではない。燃えやすいように材料の置き方を工夫していき、参加者たちは話し合いをしながら試行錯誤して火をつける。アイディアを出し合いながら、何度も挑戦し火がついた時の達成感は日々の生活ではなかなか味わえないような感動も与えてくれる。

食材は松野町で生産されたものを使用。県外からの参加者は、松野町の食材のおいしさにど肝を抜かれていた。食事の時間一つ切り取っても様々なドラマがある、それがMEGURU CAMPの醍醐味だ。

  何度も材木を組み直しながら火をつける
 美味しい無農薬のお米を綺麗な川の水で洗う。これぞキャンプの醍醐味

大人の余白時間

食事が終わり「今からこの紙に書いてある内容をやってもらいます」
渡されたのはまっさらな一枚の紙。これをみた参加者の反応は多種多様だ。笑ったり、首を傾げたり、驚いたり。

    白紙に思わず笑みが溢れる

今回の最大のテーマである余白時間がはじまった。参加者は、何をしてもいいし何もしなくてもいい。

ただ、渡辺さんはその余白時間を楽しんでもらえるように様々な工夫をしている。例えば、ネイチャーゲームを楽しむ場所を用意。

「美の小道」と名付けられた森の中の小道には、小さな正方形の紙が置かれ、日本語と英語で言葉が記されている。(例:To walk in nature is to witness 1000 miracles. 自然を歩いていると、何千もの奇跡が見えてくる。など)
川の音や風で揺らされた葉の音を全身で感じる。

木漏れ日と川のBGMによりリラックス状態で読書ができる「森のlibrary」が誕生

本が数冊並べられた「森のlibrary」には「森の中で読書はいかがですか。木漏れ日の照明と川のせせらぎをBGMに」という言葉が。

普段読書をする人がいても、自然の中で読書をする人は多くはないのではないだろうか。
場所が変われば読み手の内容の受け取り方も変わってくる。

参加者の余白時間の行動を見てみると十人十色。何をしようかと辺りをうろうろしながら時間を待つ人、振り切って自然を堪能しながら散歩をする人、川をみながら自分の人生を振り返っている人。

余白時間は個々人に与えられた自由な時間。その時間を大切にする一つのきっかけを参加者たちはこのキャンプを通してお土産として持ち帰る。

社会に帰る時間

16時、みんなで円になり会話をする。チェックアウトの時間だ。

森で感じたこと、その人自身の人生についてなど会話のテーマは決まっていない。最初は、初対面ということもあり話す場面でも多少の緊張感がありながら会話をしていた人たちの間でも最後には、日常生活ではあまり踏み込まない深い対話が生まれていた。

このキャンプを終えてみて、参加者たちは

「森に来る前は自然に与えてもらおうとしていましたが、時計と携帯を置き自然を感じ、自然と過ごしていく中で与えてもらうばかりではなく、自分達が自然に何を与えられるのかを考えるようになりました」

「元々、あまりアウトドアが好きではなかったけれど、MEGURU CAMPを通して野外で遊ぶことの楽しさを知ることができました。また、日常の自分から離れて、まっさらな自分に還ることができ、いいリフレッシュになりました」

と笑顔で語ってくれた。

企画担当者の渡辺ゆおさんは

「最初は、とても不安でした。野外教育やキャンプの知識があるわけでもない私が出来ることは何だろう、と考える日々。そして行き着いた答えは『見えるもの(体験・行為)を通して、見えないもの(意味・価値)を伝える』ことでした。

私は、3ヶ月間森で暮らす中で、自然体験の必要性を再認識することが何度もありました。その中で、私は沢山のことを学び、感じてきたことをより多くの大人に気づいてほしいと思うようになったのです。

つまり、私がやるべきことは、そのきっかけを作ること、気づきを与えることなのではないか、と考えました。

MEGURU CAMPを終えた今、振り返ってみると、毎回のようにハプニングが起こったり、思っていた通りに進まなかったりしましたが、そういった不自由も楽しめていたのではないかと思います。
最終回を無事に終え、一旦幕を閉じたMEGURU CAMPですが、全6回を通して伝えたかった想いや、それぞれが自然の中で感じたこと、そして新しい気づきが、いつまでも心の中の灯火としてあればいいな、と願っています」

と企画を振り返る。

MEGURU CAMPの参加者たちは、森からいただいた「余白時間」をお土産として持ち帰り、またそれぞれの日常生活に戻っていく。
その良さを周りの人に伝えたくなる。森に自然に感謝する。そのようにして森と人間はめぐっていく。

ライター・撮影 / 杉山寛哉