AMBITION

森の国 Valleyの挑戦
2024.04.01

ままとこどもの感性が開く3泊4日のままとこキャンプ

私は一年前に森の国に出会い、妻と2歳と4歳のこどもと共に一家でこの町に移住をした。

以前は都心でマンション暮らし。当時は何不自由ない幸せな生活だと思っていたけれど、振り返ってみればこどもたちが遊べる場所は、近くの小さな公園だけ。旅行に行っても周りに気を使うばかりだった。

森の国に移住して一年。ぼくらのアソビ場は家の周りの庭や畑だけでなく、山や川、田んぼ、森、道路、ご近所さんのお家まで広がり、こどもたちはいつも集落内を走り回るようになっていた。「いつの間にこんな高いところに登れるようになったんやろうか」 身体能力は高くなり、虫や草花の知識が増え、ペットのチャボ(鳥)と友達になり、町の人との交流も増え、気づけばこどもたちは一人で遠くまで遊んで帰ってくるようになっていた。今、ホテル会社で働いている私は、周りの友人にもこの暮らしを共有したいと考えていた時に、「ママ」と「こ」キャンプのイメージが浮かんできた。

こどもの感性を育むことってすごく大切。でも今日本ではその機会が徐々に減ってきている。ママがストレスなく子育てをでき、ママとこどもが気を抜いて遊べるようなフィールドを、と思い「ままとこキャンプ」を創った。

ー坪井映二郎(わっほー)

2024年3月の雨の日。270人の限界集落にこどもたちの声が響き渡る。初日、森の国Valleyの入り口、目黒テーブルに4組の家族が集まった。

「はじめまして」

と挨拶し合うママとスタッフたちは、どことなく緊張していて、こどもたちは少し不安な表情を浮かべていた。


しかし、自然の中で心も身体も解放された4日間を共に過ごすなかで、雨から晴れに移ろう天気と連動するかのように、参加者の気持ちは徐々にほぐれていった。

「80億人の人口で、ぼくらが人生で巡り会える人の数は、わずか3万人なんだそうです。いまこの場所で4日間を過ごす僕らの確率って、0.00000375%の奇跡なんです」とわっほーは言う。

泣いて笑って叫んで。全ての感情を曝け出した、ままとこキャンプの奇跡の4日間を追いながら参加者のママとパパに、話を聞いた。

衣を彩る

最初のプログラムは森の国の藍染師UTAによる藍染ワークショップ。自然栽培で自ら育てた藍で、参加者はそれぞれ思い思いの模様を想像しながら衣服を染める。

「最初の藍染のプログラムまではまだ慣れてなくて娘も泣いてたんですけど、その後は心を許したのか、私がいなくても大丈夫でした」

人と関わる

今回は、森の国にインターンにきていた大学生と女子高生がままとこキャンプスタッフとして参加。ママの代わりになってこどもたちと遊ぶ。


「私の両親もまだ働いているし、幼稚園もここまで目をかけてもらうこともないだろうし、いろんな大人がこどもを見てくれるっていう環境が日常に滅多にないんです」



雨や自然に触れ、ママとこどもたちの表情も豊かになっていく。普段は気がつかない小さな虫や花に目を向けてみると、こどもたちの新たな感性が花開く。

「嬉しそうに葉っぱや枝を取ったり、みみずや虫を触ったりするこどもを見れたことが、親としては一番の喜びでした」


人は、自然の中で楽しむ術を本能的に知っていて、常にそれを求めているのかもしれない。

「もうただシンプルなんですけど、森の中を歩くとか、岩の上に上るとか、田んぼの中に入るとか、動物を見るとか、やろうと思っても日常ではなかなかできないことが、本当に楽しくて」


「こどもとパパの絆が深まることも、今回参加にあたって期待していたことの一つです」

野菜を知る

こどもを育てているからこそ、身体に安心安全な料理を作りたい、と思っているママは多いのではないだろうか。2日目の昼は、都内でイタリアン数店舗の料理長を務めてきた安藤シェフを講師に迎え「こどもが野菜好きになる、プラントベースのオムライス作り」を実施。野菜の切り方、炒め方、使う部位。シンプルだけど各工程に、野菜の旨みを上手に引き出すポイントがあることを教わった。

「今まで真逆のことをやっていた」と目から鱗の知識をたくさん得たママたちは「早く料理がしたい」と興奮気味に話す。


卵アレルギーのこどもも、卵の代わりにじゃがいもを使ってオムライスを作ると、美味しそうにほとんど完食。

土に触れる

今回、4日間のうち、初日の2日は雨だった。しかし何かのプログラムを中止することなく、あえて雨の中で過ごす森を体験できたからこそ良かったという声が意外と多かった。

「雨だと心配してたんですよ。でも、雨だからこそ見れたものがありました。雨の次の日なのに、なめとこの川の水はなんて綺麗なんだろうとか、森の中を散策しているとしずくがいっぱいあって、これがいっぱい重なって川ができてるんだとか。森がキラキラしていて。ずっと晴れだったら、そんな気づきもできなかったと思います」

親子で田んぼに入るという、まいまい企画のプログラムではみんなで田んぼに向かってジャンプ。芝生で裸足になることはあっても、土の上で裸足になれる環境は意外と少ない。


「雨の中外で遊ばせることがなかったし、私も雨で土砂まみれになることはなかったから、逆に今回雨だったのもすごい良かったです。こどもも私も、どろんこになっても気にせず遊びました。都会でもやりたいけど、コンクリートで土がないからなかなかできないし、しかも無農薬の安全な田んぼっていうのを聞いて、ちっちゃいこどもも安心して入れることができました」

森と共に生きる

自然が隣にあるからこそ、徐々にこの森の環境に寄り添った暮らしを意識するようになる。

わっほーが、ガイドをしながら参加者と共に滑床渓谷を歩く朝。「自分の中の当たり前が変わった感覚がありました」と、とあるパパは話す。

原生林のようにみえるこの滑床渓谷の森も、実は70%が人工林であることを説明すると、参加者は驚きながら興味津々に耳を傾け、森を観る。


「天然林のエリアと日の当たり方も全然違って、暗くてうっそうとしていて、怖くて、人間でも寄り付きたくないようなところもありました」

そして、「自然から学ぶ」という言葉の意味を、参加者それぞれの感性で腹に落とす。

「人間がどう森と向き合えばいいのかを感じたり学ばせていただいたのは意義がありました。人間の都合で作る森ではなく、美しい森を次世代に残したいという思いが強くなりました。でも、荒れた森をまた元に戻すのも人間の力が必要で。そこはかなり自然に寄り添っていかないといけないなと思います」

「自然ってありのままに生きてるから、自然。生きるとは何か、みたいなことに繋がりました。いろんな人と関わりながら生きていると、自分を見失うことってあると思います。そういうときに、自然と関わることで原点に返らせてもらえたなって、この森の国ガイドを通して思いました。彼(わっほー)自身が、この集落に移住して1年経ったことを、感じたままに伝えてくれたから、僕の中にはすごく入ってきました」

いのちをいただく

3日目、集落で飼われていた合鴨を一羽締めた。動物の生死の瞬間に向き合い、これから生きるこどもたちはもちろん、ママやパパにとっても、食に対する気づきがあったのではないだろうか。


「合鴨を締めた日は、とても印象に残っています。締めた後も動いていて、最後の死を受け入れてない生命力の強い鴨さんを見て、言葉に表せないんですけど、胸が痛かった。命をいただいて、食があるんだと、深く実感しました」

鴨を締め、自分たちの手で羽をむしり、それをいただく。いのちが食になり、自分たちの体に入るという経験をした参加者たちは、一言により強い想いを込め、噛み締めながら「いただきます」と言う。

この森に学び この森に遊びて あめつちの心に近づかむ

こどもは自然に育つ。

振り返ってみると、「もっともっと自由でいいんだ」というママやパパたちの声が多く聞こえた。

「私は結構自由奔放に育てているつもりでしたが、意外と心配性でこどもを制限しちゃうことが多いことに気づきました。一度、ぼーっとしているときに、息子が危ないところに落ちかけてたけど、ちゃんと自分でストップできてた。危ないところの手前で自分でピッと止まっていたので、こどもって思っているよりちゃんと自分で判断できるんですね」

「私自身も、日が経つにつれてだんだんと制限が外れて、より自然にこどもと接することができるようになりました。私がピリピリしたらこどもも機嫌が悪くなったり、私がご機嫌だったら、こどももすごくいい子になったりとかする。母親の気持ち次第でこどもも変わるんですよね」

「必要な時は頼られるし、その時に手を差し伸べたらいい。そういう適度な距離感が必要だと感じました。こどもをコントロールしようっていうのがまずおかしな話なんですけどね」

「森の国は、ここでしか感じられないものがあります。ここに来ると心が浄化される。本当に大切なものは何かっていうことを再確認する場でもあると思いました」

森の国Valleyは、家もホテルも庭も山も川も畑も田んぼもご近所さんのおうちも、集落丸ごと全てアソビ場だ。この4日間、朝から晩まで遊び通したこどもたちだが、最終日までまだ遊び足りないくらい元気いっぱいだった。

このキャンプで出会ったこどもたちは、物心がついた時にはお互いのことを忘れてしまっているかもしれない。でもきっと、ここで覚えた感覚は一生忘れないだろう。

さあ、また森に帰っておいでよ。奇跡を、再び。

Special Thanks to…

企画立案・狩猟家 / 坪井映二郎(わっほー)
地力蘇生人 / 細羽雅之
キャンプディレクター / 前川真生子(まいまい)
藍染師 / 清水裕太(UTA)
SELVAGGIO料理長 / 北久裕大
料理教室特別講師 料理人 / 安藤曜磁
写真撮影 / 渡邊晃司
ライター / 井上美羽
学生スタッフ / たっちゃん、ひよりちゃん、ももこちゃん、しずくちゃん、しおんちゃん
サン・クレアスタッフ
のぶりん農園、森の息吹、株式会社タイチ、たみこさん、シゲさん、目黒住民のみなさん