AMBITION
NAME CAMP2022 ひと夏の大冒険
肌に滴る汗に夏の猛暑を感じる8月初旬。
親元から離れ、見知らぬ土地で、初対面の仲間たちとともに過ごす11日間、真夏の野外生活。朝から晩まで帯同した僕は、たった1日の中でも大きな変化を見せてくれる彼らの様子を写真に収めながら、11日間の成長の軌跡を追った。
これは、一夏の汗と涙と成長の物語である。
NAME CAMPの5大要素
NAME CAMPは、絶対的な大自然(Nature)、冒険・挑戦(adventure)、多様な仲間(Mosaic)、リアルな体験(Experience)、集団生活(Camp)、という5大要素を含んでいる。その5大要素がどのようにキャンプに含まれているのか紐解きながら振り返る。
11日間の冒険の始まり
2022年8月3日。旧松野南小学校にやってきたキャンパー(キャンプ参加者)。「ぼうけんの書」と書かれたしおりと、「NAME CAMP2022」と書かれたボトルを受け取る。彼らの表情からはこれから冒険が始まるワクワク感と、11日間も親元を離れる不安感が伝わってくる。
NAME CAMPは参加する子どもだけではなく、離れて子どもを見守る親御さんも共に成長していく。
非常事態を除いて、11日間の間でスタッフ側が親御さんに連絡することはない。その間、心配になることも多々あっただろう。子どもとの再会を待ちながら、帰ってきたらどのような接し方をすればよいか11日間の間でたくさん考えたことだろう。
キャンプに参加する子どもたちだけでなく、関わっているすべての人の心を動かされるのが、NAME CAMPの醍醐味の一つと言える。
少年の冒険
松野町目黒にやってきた一人の男の子。
集合場所の小学校に到着するや否や、お母さんの陰に隠れてなかなか離れようとしない。写真を撮ろうとしても隠れてしまう。開会式になってもみんなの元に近づこうとはしない。
今回、特別なニーズを抱えている子がNAME CAMPに参加してくれた。親御さんが申し込んだものの、本人は最初から絶対行かないと言っていた子だった。
親御さんは、このキャンプに賭けているとキャンプ前に言ってくれていたそう。生まれて初めて親から離れて、いきなり10泊11日という長期キャンプ。初日も泣き叫んだり、周囲にあるものをなぎ倒したり、大暴れだった。
「わたしが母親と離したから、彼にとって私は敵だったんだけど、でも少しずつ心を許してくれて。」
そう語るのは、NAME CAMPのキャンプディレクターの前川真生子さん(以下まいまい)。
「最初は2班のカウンセラーのぼく(キャンプスタッフ)が、上手に彼の中に入ってくれたんです。テントに入るところまで上手に誘導してくれて、おさる(キャンプスタッフ)とぼくで彼を守ってくれて、少しずつ彼が心を許せる場所になっていくようでした。」
「彼はね、こだわりを強く持っている子なんです。例えば寝袋をならべているけど、その配置にはこだわりがあって、それを触られると暴れちゃう。でも自分が得意なものを見つけるとやってくれる。机を出してくれたり、お皿をならべてくれたり。料理は苦手だから野外炊事も一切手を出そうとしないけど、みんなが外で料理をしている間に、机を運んだり食器を並べたり得意なことを進んでしてくれます。」
「それに対して他のキャンパーたちは『ありがとう』とちゃんと言えるから、彼は仲間たちに守られていました。キャンプ中、お母さんのことを思い出していましたが、母親と会えない寂しさを自分の中で乗り越えながら強くなっている様子が伺えました。急に『お母さん』と呟いて1人テントに入ったり、お母さんから届いたマリンシューズに『楽しく遊べますように』と書かれたポストイットを嬉しそうにしおりに貼ったりね。お母さんのことを思い出すけど、それが寂しさに繋がらなくなってきました。」
彼だけでなく、キャンパーたちの変化は明らかだった。最初は、周りの大人の声かけに対してもコミュニケーションを取ろうとしない子どもたちだったが、松野町の森、宇和島の海といったスケールの大きい絶対的な大自然に囲まれ、火を焚べ、川で魚を釣るなどのリアルな体験。住んでいる場所も環境も価値観も年齢も違う多様な仲間たちと話し合いながら、さまざまな困難を乗り越える集団生活を通して、自分とは違う他者を理解し受け入れようとする心も生まれてくる。
登山の道中には「もう少しだよ、頑張ろう」と肩を叩いて鼓舞しあうキャンパーたちの勇ましく優しい姿に僕自身心を動かされた。
そして例の少年は、最後は自分からチームの輪の中心に入っていくことができるまで変化したのだった。
NAME CAMPプログラムの仕掛け
今回のNAME CAMPには、乗り越えるべき3つの課題が用意されている。
「キャニオニング」「マウンテンバイク」「縦走登山」だ。この3つのアクティビティを入れているのは、プログラムを作成したまいまいの意図がある。
「野外教育には『Adbenture wave(アドベンチャーウェーブ)』という考え方があります。『Adventure wave』はプログラムの動きのことを指している言葉です。私は精神的にも肉体的にもキャンプにはメリハリがあった方がいいと思っています。メリハリ(ウェーブの幅)が大きい方が、子供たちの心が揺さぶられ、グループがいい方向にも悪い方向にも動きが出ます。NAME CAMPは、その振り幅をあえて大きくしています。
また、ウェーブが統一的になっているのではなくて、どんどん波が大きくなるように仕掛けています。
最初にチーム要素が強い登山を持ってきても、チームが出来上がっていない状態なので、『ただ単に山を登った』体験で終わってしまいます。特に組織キャンプなので、『チーム要素』が徐々に強くなっていくようにプログラムしています。」
キャニオニングは一人で高い場所から飛び込んだりしながらも、みんなで「OO頑張れー」と言って、仲間を感じて楽しむことが多い。マウンテンバイクになると、班で行動するが、自転車を漕ぐのは自分一人であり、個人の要素がまだ強い。しかし、最後の縦走登山になると、班単位で動き、自分の動きと班の進捗が直結するため、組織要素が強い。
『Adventure wave』と子どもたちの関係性や心の変化を考慮してNAME CAMPのプログラムは組まれているのだ。
マウンテンバイクではとても印象的な場面があった。5日目の明け方、自転車を漕ぐ練習をしているキャンパーたちの姿が見られた。自転車に乗ったことがない仲間のために「みんなで起きて練習をしよう」と班のみんなで早起きをしたのだった。その成果もあり、40キロの道のりを走破することができた。目の前に立ちはだかる大きな波(ウェーブ)を乗り越えるために仲間と共に、できないことを克服する。彼にとって今回の挑戦は、貴重な経験になったに違いない。
また、まいまいはNAME CAMPの「3つの生きる力」についても語ってくれた。
「NAME CAMPには3つの生きる力を養う目的もあります。
『自然と生きる力』『人と生きる力』『自分と生きる力』です。
『自然と生きる力』は、自然は心地いい、青空って何かパワーもらえるといった自然の良さ、時には怖さを知って共生していく力のことです。
『人と生きる力』は、自分とは価値観も年齢も違う人と触れ合って、この人はこんな伝え方をするんだと他者への理解を深めていく力のことです。他者への理解を深めることで、自己理解にも繋がっています
そして最後は、『自分と生きる力』です。これに関しては、11日間ではスタッフも含めてわからない人の方が多いと思います。対自然や、対人との経験を通して、様々な感情を体験することで、本当の自分と向き合う時間があります。向き合う時間は、キャンプ中に取れる人もいれば、キャンプ後のふとしたきっかけで取れる人もいます。
NAME CAMPの11日間の中だけでなく、自分と向き合うきっかけをNAME CAMPで掴み、その後の彼らの人生のどこかのタイミングで、自分自身と対話して自分のいい部分も嫌な部分も自分の価値として気づいてほしいと思います。」
この冒険の先には
彼らにとってNAME CAMPが自分と向き合うきっかけとなり、仲間の大切さを知り、困っている人がいたら、助け合える、そんな人生を歩んでいくことを心から願っている。
普段の学校生活では絶対に体験することのできない11日間の「非日常」。
彼らが何を思い、学んだことをどのように生かしていくのか、今後がとても楽しみだ。
夏の暑さがすぎていき、山粧う季節がやってくる。彼らを見つめた大自然は季節の移ろいと共に姿を変え、親元に帰った彼らもそれぞれの日常に戻っていく。
NAMECAMPでの濃い経験を再びすることはないし、ここで出会った仲間たちが再び集まることはもう2度とないかもしれないが、彼らの夏は確かにここにあった。
いつかNAME CAMPで得た経験が「お守り」となって、みんなのことを支えてくれますように。
ライター・撮影 / 杉山寛哉(すぎちゃん)
編集・撮影 / 井上美羽