AMBITION

森の国 Valleyの挑戦
2022.08.05
町内イベント

町全体が蛍祭りの会場に

#Festival#夏#目黒の伝統

「今年は蛍たくさん飛んでいるね」蛍祭りが近づくにつれこんな会話が住民たちの間で行き交う。

2022年6月4日。
第15回目黒蛍の畦道ライトアップ、通称「蛍祭り」が開催された。
パンデミックの影響で2年間開催が見送られ、今年は待ちに待った3年ぶりの開催となった今年の蛍祭り。
祭りの日が近づくにつれて町の住民の間でも会話の話題になることが増えていった。

蛍祭り開催までの背景

目黒の蛍愛好会発足のきっかけは、平成16年の大豪雨被害だった。
その年の夏は川の形が変わるほどまでに大水が全てを洗い流し、滑床の渓谷も荒れて、一時は道路も川と化すほどまでに。

豪雨災害により目黒川やその支流にいた蛍も流され、いなくなってしまうことを心配した当時の目黒区長と地元の小学校教諭が推進役となり平成17年に目黒の里ホタル愛好会が結成され、蛍の繁殖活動を始めた。

翌年からは当時国土交通省の風景街道事業の推進役として松野町にやってきた東大の羽藤先生と、松野南小学校、目黒の里ホタル愛好会の3者が協働し、地域活性化のイベントとして「蛍祭り」が開催されることになった。

前日から準備に取り掛かる

今年(2022年)は、目黒の里ホタル愛好会が中心となって、目黒地区の自治会や若手の住民団体「アイブラック」が力を合わせ開催にこぎつけたが、これまでも率先して蛍祭りの開催に尽力してきたホタル愛好会事務局の友岡さんは、蛍祭りについてこう振り返る。

「それまでは、地元の人は目黒の風景のことも、蛍のことも、特に関心が強くはなかったと思います。畦道の風景も普通だし、飛ぶのも飛ばないのも当たり前で今年多かったも少なかったも話題にのぼるようなこともなかったです。

ただ、羽藤先生や外からきた人たちは『すごく良い風景ですよね。電柱もないし、川も綺麗だし。この道はとてもいいですよ』と言ってくれて。

その言葉で初めて、地元の人たちも自分達の暮らす目黒の風景の良さに気づき、それを生かす活動ならやってみようという流れができました」

僕は21年生きてきて、生まれて初めて蛍を見た。こんな近くで見れるなんて

「数年活動を続ける中で、徐々に蛍が戻ってきたのはもちろん嬉しかったのですが、一番よかったのは、蛍や地元の自然環境に対する住民の関心が高まったことです。
この祭りにより住民間でも少しずつ蛍への関心が高まって、蛍といえば目黒だねと言われるまでになりました。今では蛍祭りが近づくにつれ蛍今年はたくさんいるかな、少ないかな、という会話がよくされるようになりました。
そして、地域の人々の蛍に対する関心が高まったことにより、蛍や川を守るという環境意識が高まったり、祭りに合わせて里帰りする人がいたり、地域に活気を感じる活動になりました」と友岡さんは話す。

町全体が祭り会場となった2022年

松野南小学校校庭の特設ステージでは、松野町出身のメンバーを中心に結成されたベテランバンド「ゆずの香り」や、松野町の有志が中心メンバーの「松野鬼城太鼓(社会人団体)・松野鬼城太鼓森風(小中学生団体)」の演奏、松野西小学校の生徒たちは手作りの灯籠を手に合唱を披露したりと、昼間から夕暮れまで賑やかな会場に多くの人が訪れた。

子どもたちも久しぶりのまちのお祭りにテンションアップ

今年は、アイブラックのハンバーグや、スナックのぶえの和風カレー、森とパンのパン、今後移住予定の夫婦の手作りお菓子販売、まちづくり青年会議のチキンナゲット、苔玉クラブによる苔玉の販売、奥内の里保存会によるお米販売、などなど数多くの出店者も蛍祭りに参加。
お肉や、魚、パン、カレーのいい匂いが祭り中に広がった。

また、会場の外では宮古島から今春移住されたご夫妻が、まるで秘密基地のような隠れ家の場で「秘密キッチン」というカフェを出店。

松野南小学校の校内に止まらず、町全体が祭り会場となった。

久々のイベントで力もみなぎる。松野鬼城太鼓のメンバーでもある友岡さん(右)

19時30分ごろになるとあたりは暗くなり始め、同時にこの時間帯から少しずつ蛍がお尻を光らせる。

清流目黒川の周辺では、夜20時ごろになると、まるで星が降りてきたかのように一斉に蛍が川辺を飛び回る。
こうした景色は地元住民にとっては見慣れた当たり前の景色だというが、すばらしい貴重な日本の原風景である。
蛍の幼虫は、「カワニナ」という比較的綺麗な場所にしか生息しない貝を餌とし、周囲に自然の環境が残っていないと繁殖しないからだ。
畦道には地域住民や小学生、来場者など一人一人が作成した数百もの灯籠が蛍の光に合わせて灯される。
和紙、角材、結束ひもがなど入った材料袋が蛍祭り前日までに地域の人々に配られ、手作りされた灯籠に思い思いの願いやフレーズを書き込んでいた。

祭りに来ていた人々は、畦道を歩き出し提灯に書かれた言葉を読みながら、畦道を歩く。

暗闇の中で灯り道を作る灯籠

地域のみんなで作り上げる「蛍祭り」。今年は、まだコロナが収まっていないためそこまで大きくPRすることはできなかったが、3年ぶりにも関わらず例年よりも多くの方が祭りに参加していた。

現目黒区長の竹内さんは「今年はコロナの影響もあり、祭りのPRが町内の方のみになってしまいました。来年は、もっと盛り上がるよう呼びかけたいですね」と来年への期待を語った。

2022年6月。蛍の光と人々の熱気に包まれた蛍祭りは、森の国の熱い夏の始まりを告げたのであった。

ライター/ 杉山寛哉
編集・撮影/ 井上美羽