HARVEST
自然のままに食べて欲しいお肉
梅雨の間の昼下がり。SELVAGGIO北久シェフとともに訪れたのは、水際のロッジからは車で1時間ほど北上した愛媛県西予市にある「ゆうぼくの里」。
ここでは牧場、精肉加工・販売、さらにレストランまで、牛が生まれてお肉になるまですべてを一貫して行っており、わたしたちが口にしているお肉のストーリーを最初から見て知ることができる場所。
ゆうぼくの里の想いに共感し「どうしても『ゆうぼくの里』からお肉を仕入れたい」という北久シェフの想いから、SELVAGGIOでもお肉を卸してもらっている。
今回は、精肉店・レストランからは車で10分ほど離れた山の中の牧場にいる牛たちに会いにいった。この牧場では、西予市産の米を餌にし、さらに牛糞は堆肥として地元農家の畑の土に還すといった、地産地消の循環型農業を実践している。
ゆうぼくの里は、もともと牛2頭だけの小さな牧場から始まったのだそう。
現在は、ジャージー、ホルスタイン、交雑種(黒毛和牛の父とホルスタインの母から生まれたハーフ牛)の3種類を中心に、75%黒毛和種の希少なクオーター種、ジャージャー種、黒毛和種のハーフ種など多数の畜種、約550〜600頭ほどの牛たちが大切に肥育されてている。
子供から大人まで、牛の成長に合わせて移動させながら育てている。まさに「遊牧」だ。
「実は牛は元々身体の大きさで上下関係がつきやすい生き物です。大きい子はご飯をたくさん食べて、小さい子はそのままだとずっと弱い立場の為、なかなかご飯も食べられず、なかなか大きくならない。なので、大きさを見ながら、囲いの中の頭数の調整を心がけています」と池口さんは説明する。
「今は仔牛専門の飼育員もいて、彼女がつきっきりでケアをしてくれるので、牛の状態も安定するようになりました。
牛の1日って体感的に人よりも長くて、例えば1日体調の変化に気がつかずに放っておいてしまうと、人間で言うと10日くらい放っておかれたような感覚になるそうです。
でも牛ってしゃべらないし、素人にはその変化はわかりにくいですよね。
毎日接して、ちょっと耳が下がってるとか、頭の位置が低いとか、近寄っても立たないとか、微小の変化に気づいてあげる必要があるんです」
餌は、体づくりのための粗飼料(発酵させた稲わら)と、良質な肉質にするための濃厚飼料(地元のお米や大豆、とうもろこしなど)の2種類がある。牛の成長状態に合わせ、バランスを見ながらあげるのだという。
こうして牛たちは、24ヶ月かけて愛情をかけて立派に育てられる。
「牛って可愛いですよね」と話す池口さんは、まるで学校の先生のように牛たちと接する。
「みんな顔もそれぞれ違いますよね。この子は顔ながいですね〜。あの子はめっちゃ目ギラついてますね。笑」
創業者の岡崎哲さんは、40年前、当時まわりには田んぼしかなかった西予市で牧場を始めた。娘さんがアレルギー体質だったことがきっかけで、誰でも安心して食べてもらえるように「必要のないもの、無駄なものは使わないこと」をモットーにしてきた。本当の食品を突き詰めていったら、「肥育中の牛には成長促進剤・抗生物質は使わない、加工食品には添加物・化学調味料や使わない」という結論に至ったのだという。
創業当時の彼の想いは、今でもゆうぼくの里で働く人々にしっかりと引き継がれ、食べ手に届けている。
仔牛の肥育から、お肉として食べ手に届けるところまで全てを一貫して行っている会社はなかなか珍しい。
精肉を手がけるプロダクトマネージャーの佐藤さんは「牛を育てて、お肉を売るということは1頭の頭からお尻まで、価値をつけてあげることが大事。そしてお肉を余らないようするために、バランスをとりながら綺麗に売っていく。それが自分たちの仕事であり、腕の見せ所になるのです」と、語っていた。
「全体の流れが見れるというのはとても貴重ですね。みんなの牛に対する思い入れや、命への思い、食へのありがたみが、すごく強く感じられるんです」と語る池口さんは最後にこう話す。
「アニマルウェルフェアや、環境問題の観点から、畜産業はどうしても批判されてしまうこともあります。でも、紐解いていくと、自然の摂理の中でも動物をいただくことは、大事な役割ももっていて、そこに人がどんな想いを見出して、口にするかっていうところが一番大事だと思うんですよね」
安心して、誰もがおいしく食べてもらえるように、大事に、丁寧に作ること
SELVAGGIOでも、ゆうぼくの里の大切な想いを紡ぎ、料理に落とし込み、お客様に届けていきたい。
ゆうぼくの里公式HP:https://yuboku.jp/
ライター/井上美羽
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