HARVEST
地域でつながる桃物語
道の駅や直売場でもたくさんの桃が店頭に並ぶ。しかし、桃はとっても繊細な果物。
少しでも傷がついてしまったり、収穫前に実が木から落ちてしまったりすると、商品としては売れなくなってしまうのだ。
梅雨から初夏にかけて、松野町は少し華やかになる。
その正体は、ピンクに色付く「桃」。
道の駅や直売場でもたくさんの桃が店頭に並ぶ。
松野町では、種が大きく甘い「白鳳」と、種が小さく実が密な「あかつき」が主流。その他にも10種類ほどの品種があるという。
しかし、桃はとっても繊細な果物。
少しでも傷がついてしまったり、収穫前に実が木から落ちてしまったりすると、商品としては売れなくなってしまうのだ。
農家で採れる桃のうち、そのまま商品として売れるのはわずか30%ほどだという。こうした中、少し傷がついて商品としては出せない「ハネ桃」を使って桃ジャムを作っている通称『ピーチクラブ』の3人(松野町延野々の桃農家の主婦)がいる。
「自然落下するのもあるし、そういうので全然収穫ならないのが結構あるね。受粉が悪かったら、収穫する前にぽっとんぽっとん落ちる。」
「落ちてしまっては商品にはならないけんね。」
この桃ジャムは保存料や添加物は一切使用せず、原料はなんと桃と砂糖と水飴だけ。
「それだけは自慢できるよね。死ぬ間際のお年寄りでも、生まれたての赤ちゃんでも食べられるいうんが目標やったけんね。」
安心安全で愛情のこもったピーチクラブの手作り桃ジャムは、松野町の道の駅「虹の森」で販売中。また、「森とパン」で毎週末販売するピーチカスタードクリームのパンにも使用している。
さらに、松野町では「ハネ桃」をジャムだけではなく、桃ペーストやピーチワインなどの加工品にし、新たな付加価値をつけ(アップサイクルし)ている。しかしそれでも年によってはジャンクの桃がたくさん余ってしまうことも。
農家であり、松野町役場ふるさと創生課の井上靖さんは、地域の桃農家がジャンク品の桃を畑に肥料として穴を掘って埋める光景を何度か見かけたこともあるという。
「やっぱり作ったものを肥料としてでも埋めるってっていうのは辛いんよね、農家にとっても。」
そこで、学校給食用に桃のコンポートを作ることを思いつく。
「学校給食で出しているダイスカットしたコンポートはほとんど輸入の黄桃に頼るけん、国内で生産しよる桃は全然流通していないんよ。これ、なんかできんかなーと思って一昨年、250キロの桃をピーチクラブに持っていって、試しにコンポートを手作業で作ってもらったんよ。」
「それを学校給食に持ち込んで営業かけてみたら栄養教諭さんにも評判が良かったんで、これは売れる感触あるな〜と思って。」
彼の見込みは大当たり。
去年は1トン、そして今年はなんと2トンもの桃コンポートを地元の学校給食で提供することに。
今は、ドライフルーツを作っている宇和島の工場に桃を持っていき、そこでコンポートを作ってもらっているという。
「それだけロスがでていたってこと。 仕組みさえ作れば、みんながちょっとでも持続していくだけのお金ができるけん。」
彼の一声で、生産者、加工工場、松野町の人たち、地元の子どもたち、みんなが笑顔になる良い循環の形ができてきている。
森の国ではみんなが手を取り合いながらつながる循環が広がっていく。
農家がジャンク品で困っているのならば、それに付加価値をつけて人々に届けることができるひとたちがいる。
たった一つの商品の裏側にも、地域の人たちの様々なストーリーが詰まっているのだ。
ライター/井上美羽
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