LIFE
鹿狩りに
#Eat&Food#地域の暮らし#狩猟
キュルルルル−−−−
森の国の山の奥から高音ヴォイスが鳴り響く。
「あぁ。やってきた。」
猟師の影平さんはそう呟き、猟具を持って山に入る。
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民家と隣接した山には、鹿や猪、猿などの野生動物が多く棲みつき、夜の間に人里に降りてきて畑の新芽や実を食べ尽くしてしまう。
農家にとってはこのような鳥獣被害は死活問題だ。
鳥獣被害を減らすべく、猟師は鳥獣を狩りに山に入っていく。
わずか人口270人の森の国目黒には、11名の猟師軍団である『目黒猟友会』が存在する。影平さんは狩猟歴50年のベテラン狩猟家であり、目黒猟友会の会長だ。
慣れた足取りで山に入っていく彼についていきながら、狩猟について話を聞くと色々な話をしてくれた。
「ずっと銃でとっとったんけどね、最近はわさ(罠)ばっかりやけん」
狩猟の手法は様々で、大きく銃猟と罠猟に分けられる。
そして「わな」の法定猟具にも、ワイヤーなどで足をくくって捕らえる「くくりわな」、金網などでできた箱に閉じ込める「箱わな」、重りを載せた天井などを落下させて獲物を圧迫する「箱おとし」、天井がない箱わなのような囲いの中に獲物を閉じ込める「囲いわな」など様々だ。
今回の方法は「くくりわな」
仕掛けのポイントは、鹿が通るような細道に仕掛けること。
そして、最後に『おまじない』をする。
「これ、おまじない」と言って彼が持ってきたのは落枝2本。
この枝を仕掛けた罠の位置を避けるように土に置く。
「こうするとね、鹿が枝を避けて歩くから足がわさにちゃんとハマるんよ」
猟具から出ている紐を近くの木に縛り、30分ほどで仕掛けは完了。
あとは罠にかかるのを待つだけ−−−。
「かかるといいなあ」と言いながらこの日は解散した。
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翌朝、影平さんから電話がかかってきた。
「鹿がかかっとった」
なんと罠を仕掛けたその日の夜にかかっていたのだ。
その早さへの驚きと、初めての狩猟現場に立ち会えることの期待とでワクワクしながら急いで影平さんの元に向かう。
影平さんと合流し、一緒に山へはいる。
彼の左手には槍が握られていた。後ろ姿を追いながら、山に入ると、キュルル・・・と鹿の鳴き声が。
徐々にワクワクが、緊張に変わっていく・・・。
片足が罠に引っかかった雄鹿が、必死に逃げようとしていた。
鹿の最期の姿を自分の目とレンズに焼き付けなくてはと私は必死でシャッターを切る。
影平さんは暴れる鹿の頭を棒で強く叩き、脳震盪を起こさせ、流れるような早さで胸に槍でとどめをさす。
目の前で、鹿の体から徐々に力を失っていくのが分かった。
なんとも言えない感情だった。
悲しいとも、嬉しいとも、かわいそうとも、残酷だとも思わない。
ただただ、鹿の目は最後まで美しかった。
捕獲した鹿は、解体場に持っていき、捌いてもらう。
鹿肉として加工され、最終的には地元の道の駅やレストランなどに卸されるのだそう。
田畑を荒らす鹿や猪は食糧を求めながら生きている。
そして、そんな彼らと素手で向き合う猟師は、野生で生きる鳥獣たちと対等に生きていた。
ライター/井上美羽