LIFE

森の国 Valleyの営み
2023.06.22

森の国ソウルドリンク

#Eat&Food#History&Culture#目黒の伝統

新緑の香りに包まれる5月上旬になると、森の国ではお茶摘みが始まる。

目黒のお家を訪れると、よく「番茶(ばんちゃ)」を出してくれる。
都会で暮らしていると聞き馴染みはないが、「番茶」は日本各地に数多く存在し、地域独自の製法が現代まで受け継がれている。ここ森の国では、黒製(茶色)の番茶が飲まれている。
一方、現在日本で一般的に飲まれているのは、青製(緑色)の煎茶。
その背景には、今から約140年前、黒製(茶色)のお茶は、青製(緑色)の煎茶の輸出に力を入れていた明治政府によって販売を中止されてしまったという歴史がある。

日本に生きる者として、私たちの生活に古くから関わってきたであろう番茶文化を知ろうとしないのは、なんだか勿体ないと思うのは私だけだろうか。
今回は、地域の農家さんたちから森の国の番茶文化を教えてもらうためお茶摘みに参加させてもらった。

地道でも楽しい手摘み作業

ウーロン茶や紅茶など、世界各地で飲まれているお茶は全て、茶樹(チャノキ)の葉を使って作られている。現在、日本に存在する茶樹のほとんどは、明治時代に開発された「ヤブキタ」という優れた品種である。 ヤブキタは目黒地区では家の軒先や畑、田んぼの石垣まで、至る所に生えている。

生命力に溢れ、栄養価が高い新芽と、その下2、3枚の柔らかい茶葉だけを摘むことが、美味しい番茶をつくる上で大切なこと。新芽と、その下2、3枚の葉っぱのことを一芯二葉、一芯三葉と呼ぶのだそう。茎を優しくつまんで引き上げる。武本民子(たけもとたみこ)さんは慣れた手つきで教えてくれた。

初心者の私は、1時間ほど摘み続けても篭の半分に満たない量しか収穫できない。手摘み作業は地道だけれど、たみこさんたちとおしゃべりしながら作業するのは楽しい。

森の国に根付く独自製法

生の茶葉は放っておくと酸化が始まり成分が変わってきてしまう。そのため、緑茶の多くは「蒸し」という加熱方法により摘んだ茶葉の酸化を止める。
一方、森の国で受け継がれてきた加熱方法は「釜炒り」である。一部の山間部でしかみられない、珍しい製法だ。

目黒地区にあるのぶりん農園では、先代から伝わる大きな鉄製の平釜を使って釜炒りを行う。茶葉をほぐすように炒ると、茶葉と鉄釜の香りが合わさり独特な香りがする。
次は、熱で柔らかくなった茶葉を手で揉む工程に移る。のぶりんのお母さんが昔、蚕の飼育に使われていた竹編みの平カゴに茶葉をのせた。

「自分の体重をみんなかけるんで」
お母さんがVの字を描きながら力強く揉むと、バラバラだった茶葉が1つにまとまっていく。

たみこさんのお家には、旦那さんお手製のお茶揉み台がある。表面に凹凸がある洗濯板を加工した台は、茶葉の組織を壊して成分が出やすくする手もみの工程に最適だ。

茶葉を5分ほど揉んだ後は、日光にさらす。平均30分から1時間ほど天日干しにすることで、煎れたお茶の色が茶色になるという。そして手揉みと日干しの工程をもう一度行う。天候に合わせて、手揉みの回数や日干しする時間の長さを調節するそうだ。

最後に手でポキッと折れるまでお日様の力で乾燥させる。ここでひと手間、フライパンでもう一度茶葉を炒る。茶葉をやかんに入れて煮出せばやかんで煮出せば、ほんのり甘くて香ばしい森の国ソウルドリンクの完成だ。

のぶりん農園の目黒番茶

手摘み、釜炒り、手揉み、日干しと、森の国伝統の製法で作られたのぶりん農園の番茶は松野町の道の駅や森とパンで手に入れることができる。

地域に根付くソウルドリンクは、お茶を飲めるありがたさや作り手の存在を私たちに思い出させてくれる。来年からは私も作り手となって森の国の番茶文化を守っていきたいという気持ちが芽生えた。

ライター・撮影 / 高橋和佳奈
編集 / 井上美羽