LIFE
限界集落で掃除をしたら人生観が変わった話
2023年12月3日、冷え込む日曜の朝、時刻は8時半。今日は目黒集落でのボランティア清掃の日だ。270人の住むこの限界集落で約20人が集まったのは、小さなコミュニティの驚くべき結束力の証だ。
「特にゴミも落ちていないし、形だけの掃除かな」と、この地域の清掃活動に初参加するわたしは考えていた。
区長が挨拶を始める。「今日は寒いけん、怪我のないように」
「清掃で怪我はしないやろ区長!」とわたしは心の中でこっそりツッコミを入れた。
チームに分かれ、ゴミ拾いに出発。わたしは、最もゴミが多いとされる国木田のトンネル口に向かった。しかし、手に持っている70リットルのゴミ袋に見合うほどのゴミはないように見えた。
「この作業は1時間もあれば終わるだろう」と思っていたその時、町内の常連ボランティアの女性が教えてくれた。「このガードレールの下にたくさんゴミがあるのよ。この袋もいつもいっぱいになるくらいだから」。半信半疑で急な道を下りたその先には、驚くべき光景が広がっていた。
ゴミはあちこちに。森にポイ捨てされたごみは、空のお弁当箱や、空き缶、ペットボトル、プラスチックの欠片など様々だった。周囲の自然とはまるで異質な存在感を放っていた。
ヘンゼルとグレーテルがパンくずを拾うようにゴミを拾えばその先に見つけ、また拾い…を繰り返し進んでいると、気づけば1時間が経過していた。足元は危険な傾斜で、一歩間違えば川に落ちてしまいそうだった。ここは町外の人も通る道で、車から投げ捨てられたゴミもあるのかもしれない。人目につかない場所は、ゴミ箱のように思えるのかもしれない。
10時半。参加者は基幹センターに再集合し、分別作業に入る。
衝撃だった。
わたしが以前ゴミ拾いに参加したのは、学生時代だったが、今回の感想は当時のそれとは全く異なるものだった。
「今日はみなさん、参加してくれてありがとうございます。では、一人一人感想をお願いします」と中学生が呼びかけ、参加者が1人ずつ思いの丈を話す。
「私は15年間この町に住んでいますが電磁波過敏症で人との交流が難しく、町内の活動を敬遠していました。ただ、ある方が毎日ゴミを拾っているのを見て私もやらなきゃと思い、参加を決意しました」
「3年前に比べれば、ゴミの量は半減しました。皆さんが参加してくれるおかげです。きれいな場所は、人を不思議と綺麗に保ちたくさせるものです」
「住民と交流ができてよかったです。来年も必ず参加します」
それぞれの感想は、同じ活動でも異なる視点を反映していた。どれもただの「感想」ではなく、実体験に基づく真の声だった。
毎日一人でゴミ拾いを続けていたある人は言った。「目黒は風が強いけえ。自分が捨てている意識がなくても、何気なく置いたものが飛ばされて、ゴミになってしまうこともある」
ハッとさせられた。
ずっと、自分はただ他人の残したゴミを拾っていると思っていた。しかし、知らず知らずのうちに、自分が加害者になっていたのかもしれない。
わずか2時間で、自分の価値観を覆されたような、そんな経験だった。
最後に区長が会を締めくくる。
「みんな、今日は怪我なく終えられて、よかった」
わたしは、大きく頷いた。
ライター/ 井上美羽