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未来のバトラー

消防士からホテルマンに転身し、2020年の春にサン・クレアにジョインした小笠原航雅さんは『人のために生きたい』というブレない芯を持つ。彼の過去、今、そして未来についてインタビューをした。

憧れの消防士になるために

幼稚園の隣でサイレンを鳴らして走っている消防車を見ていた時から、ずっと消防士を目指していたという彼は、自然と「自分は消防士になる」と思っていたという。

「『なりたい』っていうよりも、『なるだろう』って、もう小学中学高校もずっと思っていましたね。そして高校の受験シーズンのときも、専門学校や大学は一切受けずに、落ちたら浪人という覚悟で、宇和島の消防だけ受けました。」

そして高校卒業後、見事憧れの消防士に。
その中でも、消防士としてやりがいを感じた印象的な話があった。

「ある雨の日、朝用事があり、いつもと違うコースで出勤してたんですよ。狭い道を車で通っていたら、傘をさした男の人が前を歩いていて、その人が急に倒れたんです。
すぐに路肩に車を止めて、大丈夫ですかって声をかけて顔を見たら、それが自分が所属していた部署の上司で。びっくりして結構パニックになりましたが、咄嗟に自分がやらないといけないことを考え、道の端にその人を動かして、救急車を呼んで、心肺蘇生をしてというのを必死でやりました。
結局その人は宇和島の市立病院に運ばれて、心筋梗塞で、3日後くらいに目が覚めて、一命を取り止めることができました。
もっと自分ができたことは今思うともちろんありましたが、自分ができることを精一杯やったことで人を助けられたという身をもって感じられた経験でした。」

接客のプロとしてお客様のために

そして、4年間消防士として働いたのち、2020年の春に、突如ホテルマンに転身した。

「消防って人命救助のプロって言われるんじゃないですか、じゃあ接客業のプロって何かなと考えた時に、自分の中でホテルマンかな、と思ったんですね。」

彼は今、昼から夜まで水際のロッジのフロントに立つ。お客様との距離が近い水際のロッジでは、チェックインの間にも仲良くなることが多い。

「チェックイン時は、駐車場案内からお客様とコンタクトを取ります。その後お部屋まで案内をして、滑床渓谷の地図や、部屋の中の本やドリンク、夕食、イベントなどを紹介してるんです。説明を終えて、部屋を出るときにはお客様と結構仲良くなっていることが多いですね。」

「それと、夜はナイトツアーを行なっているのですが、終わってから、拍手をされたことがあったんですよね。終わってから『楽しかったです』とお客様に言ってもらえて、嬉しかったですね。あの時は『ああ、やってよかったな』と思いました。」

さらに今後ここでやりたいことを聞くと、バトラー制度をやりたいという。バトラーとは、チェックインからチェックアウトまで、ホテルを利用してくださるお客様一人ひとりの専属サービス係として、身の回りのお世話をする、ホテルにおける最高級のおもてなし制度だ。

「自分の中でもホテルとしてもバトラー制度をやるにあたってまだまだ課題はありますが、最終的にはできたら、と思っています。」

「あと、ホテルだけでなく、自分がレストランでもできることがあれば、できることを広げたいと思います。もしかしたらレストランの人たちも、忙しいときに自分が入ることで、来てくれてよかったって思ってくれる人がいるかもしれないから。」

人助けをしたい

「人助け、人の役に立つことをやりたい」と考える小笠原さんだが、学生時代の彼も、陰ながらも人のために動いてきた。

「中高生の頃、とても小さいことですが、例えば学校で教室の窓を開けたり、黒板消し係とかを率先してやったり。そういうのを誰に頼まれるでもなく、周りの人のためになるかな、と良かれと思ってやっていましたね。」

座右の銘

人生における選択に悩んだ時は、思い出す言葉があるという。

「学生の時陸上で長距離をしていて、ある小説を読んだんです。
その中で出てきたセリフがすごい印象的で、今でもその言葉を自分の座右の銘にしています。」

『過去や評判が走るんじゃなくて、今君自身が走るんだ。惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ。』

「もともと優柔不断な性格で、結構、周りにどう思われるかを気にしがちなのですが、そのときの自分が間違いない、と思うことを考えて行動しようと意識しています。」

目標は治彦さん

ロッジでは、業務の中に、アメニティが全部あるか、綺麗に整っているか、お客様が来る前に全部チェックするインスペクションという業務がある。

ここに入ってすぐに、治彦さんにインスペクションを一通り教わった彼は、治彦さんが行き届く配慮の細かさに感銘を受けたという。

「例えば、お風呂のチェックでは、『温度が全て同じかどうか、蛇口の向きが一緒か、シャンプーのパッケージ、ヘッドも全て見ています』と言っていて、『すごいこの人』って思ったんです。こういう風になりたい、って、直感で思って。」

「それからミーティングのときに『目標は治彦さんです』と公言はしましたが、実際はちょっと難しいですよね。笑
インスペも僕の中では完璧だと思っていても、治彦さんにとってはまだまだです。目標は高くの方がいいんですけど高すぎるんです。」

「ただもうすごく近いところで働いてますから、これからもたくさん吸収していきたいです。」

「インスペクション」では、ベットのシーツ、リネンなどの点検も隅々まで行う。

幼少期から、「人のためになりたい」という一貫した思いを持っている彼は、消防士という人命救助の仕事も、ホテルマンの仕事もフィールドが全く違う環境の中で、どちらも「誰かの役に立つ」ために、まっすぐに仕事に向き合ってきたのであった。

自分の考えを周りにひけらかしたり、強く主張することはないが、彼自身の中に秘めている強い芯は、環境が変わっても決してブレることはないだろう。

今日もきっと、もしかすると誰にも気づかれないところで、「人のために」動いているのかもしれない。

ライター/井上美羽