RESIDENTS

No.36
森に根を張る百姓へ
友記郎さんと一緒に森へ入ると、壮大な自然景観よりも彼の自然との距離の近さに驚かされる。
「自然の繋がりを実感、感覚を持って伝えられるようになりたい」と、自然への探究心をいつまでも磨き続ける訳と彼が目指す森でのビジョンについて、インタビューをした。
鼻に詰めたのは…鹿のフン
ー友記郎さんが滑床渓谷内に転がっていた鹿のフンを鼻に詰めていた写真がとても印象に残っています。どのような感覚で自然と関わっているのでしょうか?
僕にとったら鼻にフンを詰めるのも日常なんやけどね、小学校の時から何かを匂う時に絶対鼻に直接つける癖があって笑われよったんよね(笑)
滑床で自然ガイドする時、「川の水は雨から来てるんですよ」って言ってもみんな頭でわかるけど体感はできない。だから足を川に入れて、なるべく一緒に感じようとしてるんよ。鹿のフンを鼻に入れることもあるし、あとは色んなもの舐めたり、ヒノキの種を食べたりもする(笑)
「現実」って言葉を聞いた時に、学校に行ったり職場に行ったりする日常が「現実」って思うけど、実際はたった今も太陽の周りをぐるぐると地球が回ってるという、とんでもない広さの現実もあるやん。全て「現実」として存在しているのことなのに、なんで僕が「現実」と感じるのは目の前のことだけなんだろうって疑問に思えてくるんよね。

五感を使って、少なくとも目の前にあるものの全てを実感したいっていう思いが僕の行動に現れているんかも。だから僕の強みを考えると、森川海で五感で感じてきた体感値の蓄積なのかもしれない。
子ども時代の実感から
ー現在、友記郎さんが企画するキャンプなどの大きなテーマになっている「森川海の繋がり」を意識するようになったきっかけはありますか?
兵庫県に住んでいた小学校四年生の時くらいから自分でクワガタを獲るようになったんよね。クワガタを目当てに山に行くと川があって。そこから渓流の魚が釣りたいって好奇心が湧いて、中学3年生の時に友達と京都まで自転車を漕いであまご釣りに行ったんよ。そこから社会人になるまで毎年行ったな。森川海の繋がりを意識するようになったのはこの頃だと思う。
同時に、おじいちゃんたちの時代に獲れてたタガメとかオオクワガタが獲れなくなったって聞いていたから、生き物が失われた、失われてきたみたいな感覚はずっとあったかな。
制度や仕組みの中枢から外側へ
ー子どもの頃の自然体験をベースに大学で林業について研究をしていたという友記郎さん。卒業後は愛媛県の県庁職員としてどのような経験を積まれましたか?
小学生向けに間伐体験や森林散策など森を伝える活動をする緑の少年団の活性化、あとは、えひめ森林公園をリニューアルする計画の策定をしたね。この時に、町と森を繋ぐにはどうしたらいいかということを沢山考えた。南予地方(愛媛県の南部に位置する地域)に担当が移ってからは、林業現場をたくさん見て、地元の林業会社を応援したり、人材育成のための南予森林アカデミーの運営に関わっていたね。現場と地域で林業の課題をリアルに学んだ。

ー10年間続けた県庁職員を辞めて森の国Valleyの一員になったきっかけはありましたか?
大きなきっかけがあったというよりは僕的には地続き感があるんやけど、県庁の仕事で林業の現場を訪れる時、荒れた森とたくさん出会ったんよね。そこで、材料であり環境である森を扱う産業はどうあるべきなんだろう、川に良い林業ってなんだろうって僕の中で問いが生まれてきたんよ。
政策による体制的なアプローチにも限界を感じたんよ。制度を通して地域を補助して、森林管理や林業振興する方法よりは、自分が現場から新しい事例を作る方が、僕には合ってるだろうなと思って。僕が県庁に居続けるよりも自分が現場から事例を作っていく方が公益だと思えたのも、地続き感を感じながら森の国Valleyに来ることができた理由だと思う。県庁の時に出会った、愛媛県林政のコンセプト「森林と共生する文化の創造」は、県庁時代から今も変わらない僕のテーマであり続けてる。
新しい事例を作りたいという気持ちで森の国Valleyで動いているのが、昨年2024年に開催したうなぎキャンプや植林・間伐の活動やね。県庁の立場から、現場で林業を実践する立場に変わって沢山の学びを得てる。
未来の森をここから
ー今後の森の国Valleyでの展望を聞かせてください。
昨年2024年は企画メインで動いてきたけど、次のステップとしては実際の環境へのアプローチだと思ってる。うなぎキャンプも、啓発メインで視点を変えるサービスとしてやってきたけど、自分がより実践的に山に入っていかないと何を語っても説得力ないやん。
実感、感覚を持って伝えられるようになりたい。

あめつちの心という心へのアプローチと、環境への実際のアプローチ、両方を大切にしたい。やっぱり次のステップは本当に森を良くしていくこと。
きっと体感値で森の再生を感じたり植えた木が風景を変えたりするまで10年、材になるまでは50年、林業は農業と違って時間のスパンが桁違い。現場で動いて学んで、実感値を積んでいく挑戦やね。
「林業だけでは食っていけない」みたいな意見があるけど、森って木材もあれば色んな体験ができるやん。もっと言うなら、そこらへんに生えている草とか体験も含めて、森の全てを価値に変えて生計を立てる、そんな森の百姓みたいな生き方ができたらいいなと思っとる。

森とともに生きていく
友記郎さんの話を聞いていると、一見奇抜な行動の裏には自然を五感で「実感」しようとする実直な姿勢があり、幼少期から始まった自然との関わりは学びと実践を重ねながら「森川海の繋がり」や「環境と心へのアプローチ」といったビジョンへと広がっていることを感じることができる。
制度という枠を離れ、現場から未来に残る事例をつくる挑戦は簡単ではない。しかし、彼の語る「地続き感」には、一本のぶれない軸と、時間をかけてでも森を育てたいという愛が込められている。
長い時間の流れの中で「森の百姓」として根を張り生きていく。そんな友記郎さんの姿に、森と共にある暮らしの未来を思い描くことができた。
ライター/芝和佳奈