AMBITION
子どもを『見守る』とは。キャンプカウンセラーから見る野外教育
#Event#NAMECAMP#夏
2022年の夏、昨年に引き続き2度目の開催となったNAMECAMPは、小中学生を対象として子どもの「生きる力」を育む野外教育プログラムだ。キャンパーとして参加した10人の子どもたちの成長や変化も著しかったが、このキャンプはカウンセラーとして参加した大学生スタッフにとっても大きな成長の場となる。
野外教育を通して彼らに自己理解を深めてほしいという思いから、キャンプディレクターのまいまいは大学生のカウンセラースタッフを募集した。
「大学生の時期は、自分自身のことをわからずに就職活動や公務員や教員を目指したりする人も多いと思うんです。かつては私自身、自分の長所も短所もよくわからなかったのですが、キャンプを通じて、自己理解をできるようになった経験がありました。
社会に出る前の大学生たちに自分と向き合う機会を与えたいと思っているので、NAMECAMPのカウンセラーには大学生の採用にこだわっています。
NAMECAMP中にカウンセラーたちが、子どもと接しながら『自分ってこういうのは得意、苦手なんだな』『こういう時イライラするんだな』『あーなんでこんなこと言っちゃったんだろう』といったことを考えていってほしいなと思います」
2022年は全国から多くの応募があり、その中で選ばれた6名のカウンセラーたちは異なる地域、異なるバックグラウンドを持った多様な6人だった。本記事では、6名のカウンセラーたちがこのキャンプで何を感じていたのかを紹介したい。
ぼる(マネジメントスタッフ)
クライミングなどのアクティビティを趣味とし、大学でもスポーツ学を学んできたボルは、来年から大学院で野外教育を専門に学ぶ。「身近な自然な環境が遊び場に変わる」ということを伝えていきたいと語る。
ー なぜ今回NAMECAMPに参加しようと思いましたか?
3泊4日などの野外キャンプはありますが、10泊11日という長さは初めてで、興味がありました。これだけの期間野外で活動するのは、大人でもかなり辛いはずですが、子どもたちはどのように乗り越えていくのか、見てみたいと思いました。
ー 実際に子どもたちに、どのような変化がみられましたか?
11日間の中でも、一番の山場である9日目の登山に照準を合わせて、子どもたちの中でチームワークを構築していく様子がみられました。驚かされたのが、しんどいかなと思うことも、子どもたちは意外と楽しくやっている点でした。マウンテンバイクの40キロの旅も、楽しくやっている姿を見れたことが嬉しかったですね。
そして、キャンパーが成長していくだけではなく、自分も含め、一緒に帯同しているスタッフも成長していることに気がつきました。
ファイヤー(マネジメントスタッフ)
消防士を目指す大学4年生のファイヤーは、以前参加した野外活動をきっかけに、子どもの教育に興味を持ち始めた。
ー NAME CAMPに参加してどのようなことを感じましたか?
今まで自分は限られた環境の中で、自分と同じような思考の人たちとかかわっていました。NAMECAMPでは、全く知らない地域からきた子どもたちや、カウンセラーの仲間たち、地域の人たちなど、色々な人と話す中で、人としての力をつけることができた気がします。
ー 子どもとの関わり方で意識したことはありましたか?
これまでの子どもとの関わり方は、こちら側が『教える』という立場、つまり子どもと大人の縦の関係でした。NAMECAMPでは、子どもと横か斜めの関係性で接することを大事にしていて、今まで経験したことのない新鮮さがありました。
関係性を徐々に横に倒していくと子どもと同じ視点に立てるので、子どもたちの思考回路を理解できたり、子供たちもどんどん話してくれるようになったり、といった彼らの反応の明らかな変化もみることができました。
おさる(1班カウンセラー)
愛媛県の田舎で生まれ育ったおさるは、小さい頃から田んぼの中で野球をしたり、山の中で秘密基地を作ったり、自然の中で体を動かすことが、遊び方の根本にあると話す。周りからは今を楽しむ天才と呼ばれ、大学でも数多くのキャンプを経験してきた。
ー カウンセラーとしてのキャンプ参加は初めての経験だったと思いますが、他のキャンプとの違いはありましたか?
キャンパーとしてこれまで参加してきた野外キャンプは、ただただ楽しくて、常に頭の中の脳内メーカーでは『楽』しかなかったんですよね。外のアクティビティも楽しいし、暗くなって帰ってもテントで楽しい。でも、NAMECAMPは『楽』だけではなくて。
どんなことがあろうと楽しめると思っていましたが、1日目の最初から、キャンパーが帰りたい!と暴れ出してしまった時は、これからどうしよう・・・と絶望的でした。
『キャンパーとどんな距離感で接していけばいいか』『どんな声かけが正解だったのか』『明日はどんなプランでいこうか』など考えることが多かったので、いつものキャンプとはもう全然違いました。
ただ、この経験ができたことが、とてもよかったです。子どもとの接し方は、一人一人みんな違うし、模範解答は絶対ないですよね。勉強ではなく、触れ合う経験の数を重ねるしかないと思います。
ー 今後、教員を目指す上で、教育に生かせるような発見はありましたか?
人に言われたことって覚えなくて自分で経験したことしか覚えないと思うんです。火を触らせてみて、あぁこれは熱いんだとか。
学校では見守るというよりも指導がメインなので、失敗させる前に、注意をしてしまいますよね。野外教育のやり方は、うまくいかないことを体験させてわかるまで見守る。これは学校教育の現場にも生かせるのではないかなと思っています。
ー 子どもたちと接する中での気づきはありましたか?
子どもだからといって単純なわけではないし、思いの伝え方が難しかったり、行動も理解できない部分もあったり、自分がいかにその子の中に溶け込んでいけるかが、難しくて。
だからこそ、より子どもたちを理解するためにはなるべく子供たちが自分の言葉で伝えられる方が良いなと思い、質問をするように心がけました。「つらい」と言われたら、まずは何が辛かったの?と聞いてあげる。
その子自体がどう思っているのかを知りたい、その子の言葉で聴いてあげたいなと思います。
ぼく(1班カウンセラー)
唯一今年で2度目の参加となるぼくは「去年NAMECAMPが終わった時にやりきれていない感があって。子供と仲良くなるで終わっちゃったんです」と話す。
ー 参加にあたって、去年とは違った心意気で参加したのではと思いますが、どうですか?
今年は「介入しすぎない」を意識しました。介入することも大切ですが、放っておくことがいいのかなと思ったり。外から見て自由にやってもらうことでわかることの方が多いように感じました。
子どもが成長できるような行動ができるかどうかは、自分の声かけで大きく変わります。自分がどんな声かけをすれば子供の心に深く刺さり、残るのかを、今年は特に考えました。
ー 外から客観的に見ることでどんな発見がありましたか?
親に言われると逆に動きたくなくなる経験、ありますよね。僕らが何か言って成功したとしても、それは子どもたち自身の成功とは思わないわけですよ。自分達で試行錯誤でやって、お米がうまく炊けたとか、料理がうまくできたとかの方が感動があると思います。実際、自分たちで導いた成功の時は、子どもたちの表情も全然違いました。
野外教育は、当初は指導みたいだと思っていましたが、子どもも成長するし、それ以上に自分が成長するんだと実感しました。
はちゅ(2班カウンセラー)
野外教育やキャンプは初めてだというはちゅは「まちづくり」というキーワードをきっかけに本プログラムに応募。自分が田舎に入って活動をできるインターンシップを探す中で、今回NAMECAMPのカウンセラー募集の記事を見つけた。
ー 初めての野外キャンプ、どのような思いで応募を決意したのでしょうか?
野外キャンプは完全初心者でしたが、やったことないことに挑戦してみたいという思いがあったので、まずは話を聞こうと応募してみました。私自身は、まちの魅力は観光地だけではなく、限界集落や田舎にもあるということを感じていたので、今回の滑床渓谷、松野町という舞台が良いなと思いました。
ビビ(2班カウンセラー)
元々大学ではラグビー部に所属。大学の研究室では筋肉の細胞の研究をしていたというビビは、キャンパーとして参加する野外キャンプと、カウンセラーとして参加する野外キャンプは、全く違うことを実感したという。
ー カウンセラーとして参加するキャンプはどのような特徴がありますか?
周りで変なことをしている子がいないかを気にしながら、目の前の子と話すような場面もあり、マルチタスク感がありました。野外炊事でメガネを川に流してしまったり、急に歩かなくなってしまう子が出てきたり、予想外の出来事もたくさんあり、リラックスできなかったですね。また、自分が常に子どもたちにみられているような緊張感がありました。
ただ少しずつ、目を離しても良いかな、と思えるようになりました。最初の指示出しはするけど、なるべくその後は注意せず、あえて放置する。
ー 子どもたちとの接し方も11日間の中で変わっていきましたか?
何か失敗しそうなことがあるときに、あえて失敗させるか、スケジュールを優先して成功を導くか、迷う場面がありました。
最初の方は成功体験を積み重ねるために、時間をカウンセラー側で管理することをしていましたが、最後はあえて距離を置いて自分たちで考えさせるようにしました。
編集後記
キャンパーとして参加した子どもたちだけでなく、彼らを『見守る』カウンセラーも、子どもを通して自分と向き合い、自分を理解する。ここで得た力はこれから社会に出ていく彼らにとっても大きな糧となるのだろう。
ライター / 井上美羽
撮影 / 井上美羽・杉山寛哉