AMBITION

森の国 Valleyの挑戦
2024.10.20

食と経営とコミュニケーションを学ぶ「森とこどもレストラン」プログラム

長くて暑い夏が終わり、紅葉の季節がやってきた滑床渓谷。秋の食材が豊富に実り始めたこの時期(2024年9月20日〜24日)に限界集落コミュニティ『森の国Valley』を運営するサン・クレアと、大阪を拠点に飲食コンサル事業を行うChef’s Roomの共同企画として『森とこどもレストラン』プログラムを開催した。

◾️森とこどもレストランプログラムとは?

全国の小学4年生〜中学3年生を対象としたこのプログラムは、子どもたちがレストランを営業するというゴールに向けて、「食育」「お金と経営」「チームと働く上でのコミュニケーション」を学ぶ4日間の合宿型キャンプ。1日目〜2日目は、地元の藍染師や、生産者の方々にもご協力をいただき、この土地の食材に触れ、3日目に買い出しと仕込みをし、最終日には1日限りのレストラン「森とこどもレストラン」を実際にオープンする。メニューや料理の提供方法、値段まで全てこどもたちが主体となって決めるのも、このプログラムの醍醐味だ。

キッチンでは、和洋中様々な飲食現場で経験のある料理人、沖元皓椰さんが料理のディレクションを務める。経営面やレストランでの動き方、コミュニケーションにおいては、実際に料理の知識も持ちながら数々の飲食店の経営をサポートしている竹矢匠吾さんが先導。プログラム全体の企画、調整はサン・クレアで食の発信を担う井上美羽(筆者)が担当した。

◾事前顔合わせ会

プログラムが始まる2週間前に、参加者で顔合わせのオンラインミーティングを行った。ここでは、みんなが好きな食べ物、嫌いな食べ物を聞くだけでなく、「みんなが今まで食べた中で一番美味しかったハンバーグは何?」という問いを投げかける。

「チーズインハンバーグが好き!」「前にお母さんと一緒に作った豆腐ハンバーグが美味しかった」
「じゃあ、好きなカルパッチョは?」
「オリーブオイルと、レモンかな?ちょっと酸味が入ったドレッシングがかかったカルパッチョをお店で食べたのがすごくおいしかった」

普段、レシピを見て料理をしていると、自分が好きで、作りたい料理について深く考えることは少ないかもしれない。今回の事前顔合わせ会では、ひとつの決まった料理からも、彼らの想像力と創造力を刺激すれば、何通りもの「ハンバーグ」「カルパッチョ」「ミネストローネ」があること、料理の無限の可能性に気づいて欲しいという企画者側の想いがあった。

「レストランではどんなハンバーグ、カルパッチョ、ミネストローネをお客さまに出したいか、この2週間でおうちで作って見たり、レシピを探したり、考えてみてね」

◾️1日目「知り合う、マインドセット」

1日目、水際のキャンパスに集まったこどもたちが、最初に体験したのは、たまねぎの皮やよもぎ、コーヒーカスなど、地元で捨てられる前に集めた食材の端材で作る「草木染めバンダナづくり」。藍染師のUTA(清水裕太さん)を講師に、好きな色を選び、思い思いの色と模様に染める。


草木染め体験の後は、みんなでレストラン営業に向けての話し合い。

「みんなは4日後にレストラン営業するけど、わからないこと、決めなきゃいけないことはどんなことがある?」竹矢さんの声かけにより考え始めるこどもたち。「いくらでうるんだろう?」「キッチンの使い方もわからないね」「どんなメニューをどうやって出せばいいかな」疑問点がたくさん出てきた。

「まずは店長と副店長を決めて、2人を筆頭に決めていこう!」

店長、副店長を任されたのは、唯一の中学生の、ゆこ と きなり。ここからは彼女たちがチームを仕切っていく。


話し合いの時間を終え、お腹を空かせた子どもたち。その後は沖元シェフ特製の「炊き込みごはんとお味噌汁と和食のお惣菜」をみんなで頂く。


夜の時間を過ごし、1日目で緊張もほぐれた様子。翌朝からは生産者巡りの旅にでる。

◾️2日目「生産者巡りの旅」

眠い目をこすりながら朝6時30分に起床し朝食を食べて準備。この日は朝から宇和海まで向かうため、8時には水際のキャンパスを出発する。

9時に到着して出迎えてくれたのは、宇和島で鯛養殖業を営む株式会社タイチの徳弘多一郎さんと従業員のみなさん。

船で海に出て、毎朝の日課、「あいしてるよー」と叫びながら行う餌やり体験をさせてもらった。


ぴちぴちと元気よく跳ねる鯛を、手際よく仕分け、出荷作業を行う従業員さんたちの様子を見学。迫力ある現場にみんなは釘付けだ。

実際に魚を触らせてもらい、神経締めも体験。生き物の生死に向き合うことも、食を扱う上で大事なことだ。


多一郎さんからは、今の海の現状、環境問題について、わかりやすく教えてもらった。
海で起こっていること、鯛が食べるもの、自分たちの生活がどのように繋がっているかを学ぶ。


その後は、まつのジビエの加工精肉場の「森の息吹」施設長、森下孔明さんから鹿肉について、学んだ。

地元の猟師さんから仕入れたお肉は、森下さんのプロの目でその状態を見極め、状態にあった加工方法をする。そして、丁寧に血抜きをして、部位ごとに丁寧に切り分けるというお仕事を目の前で見せてもらった。

実際に鹿肉のハンバーグを出すことを決めた子ども達は、鹿肉に興味津々で質問も絶えなかった。


魚(海)と肉(山)、二つの食材の生産者さんからたくさんの学びを経た帰ったあとは、夜ご飯の準備に取り掛かる。この日、初めて包丁を触る子どもたちは、レストランに向けて料理の練習を始める。

この日の夜ご飯はカレーライス。野菜を切り、玉ねぎをじっくり炒め、コトコトとじっくり煮て仕上がったカレーは格別に美味しかった。「おかわり」の声も止まらなかった。

◾️3日目「買い出しと仕込み」

プログラムはあっという間に折り返し、3日目に突入。この日はいよいよレストランの準備に取り掛かる。前日の夜にみんなで必要な食材について話し合い、買い出しリストを作成。


リストを見ながら、スーパーで食材探しをする。宝探しみたいだ。


無事に買い出しを終え、全ての食材が揃い、午後は仕込みを始めた。事前にしっかりと話し合いをして分担をしていたため、スムーズに仕込みを終えた。この時には、隙間時間を見つけては全力で鬼ごっことかくれんぼをするのが彼らの日課になっていた。オンオフの切り替えができているとも言うべきか・・・。

この夜は前夜祭としてアコーディオンの演奏者である新井さんによる生演奏会が暖炉の周りで開催された。
翌日の営業に向けて少し緊張モードだった空気が、アコーディオンの優しい音色に包まれ和んだ。

◾️4日目「レストランオープン」

鹿肉のハンバーグは煮込みにするか、焼きにするか。ミネストローネの具材は何にするか。タイチロウくんのカルパッチョのドレッシングは何が合うか。みんなで3日間かけて考え、完成したランチプレート。盛り付け方法も最後までみんなで悩んだ。

付け合わせのパンは、森とパンのパンとSELVAGGIOのフォカッチャを提供。ウェルカムドリンクには宇和島の温州みかんジュースをお出しした。

キッチンは、肉を焼く人、カルパッチョを盛り付ける人、ミネストローネを注ぐ人、それぞれのセクションにわかれ、サービスも予約のお客様と動きを確認。

当日は40名を超える予約があり、大盛況だった。

今回初めましての友達も多かったが、学年を超え、地域を超え、4日間を通して最後はレストランを一緒に営業できるチームにまとまった。お客様からも、心からの「美味しかった」の声をもらえたことは彼らにとっても自信になっただろう。

次回の開催は来年の春休みに計画中だ。


▼次回の開催について▼
「森とこどもレストラン」は、「Jr.レストランアカデミー」と名を改め、今後も大きく展開していく予定です。今後の本企画の最新情報については、@morinokuni_valley のInstagramまたは、森の国Valley公式LINEにて配信予定です。