AMBITION

未来の料理人たちへ
〜辻調理師専門学校インターンレポート〜
2025年3月5日、「食材の背景を学びたい」という意志を持った2名の学生が森の国にやってきた。辻調理師専門学校に通う彼女たちは、森・川・海の大自然に囲まれた愛媛県北宇和郡のなかに位置する森の国Valleyを拠点とし、7泊8日に渡るインターンをスタートさせた。
インターンプログラムをプロデュース兼サポートしたのは滑床渓谷内にあるイタリアンレストラン「Selvaggio」料理人の桑田明子さん(通称:あっこさん)だ。
「料理人になる学生たちにこの環境で働いている私が提供できるのはなんだろうと考えた時に技術ではなく、森・川・海の自然のつながりを体感してもらうことだなと思っていました。食材の背景を学びたい学生たちが自然の中で生産に取り組む生産者さんのもとを訪れることで、なにか温かいものを得てくれたらいいなという想いがありました」
あっこさんの想いのもと、実際に森に入って食材の原点に眠る環境問題に迫ったり、近隣の市町村で活躍する生産者たちを訪れたりと、新鮮な学びで溢れる日々を過ごした学生たち。彼女たちは地域の自然と生産者たちとのつながりを実際に体験しながら学んでいった。
インターン3日目には、普段の生活では馴染みがない植林を体験。日本食には欠かせない魚の数の減少と森林や河川の環境問題の関係に迫り、植林という自然の中での人間の営みが未来の食を守ることにも繋がっていることを感じながら木を植えていく。
5・6日目には森の国の隣町である鬼北町にて椎茸の菌床栽培をしている薬師寺さんと、宇和海で鯛の養殖を行う徳弘さんのもとを訪れ、普段見ることがない生産の裏側を見学させてもらうことに。
環境にも配慮したこだわりの飼料作りや供給を安定させるための長年にわたる研究、そして食材を愛し生産を心の底から楽しむ生産者たちの姿を目の当たりにした。
最終日の夜に水際のキャンパスにて行われたデンマーク発祥の食×コミュニティのイベント「アブサロン」では、彼女たちがインターン中に集めた食材を使ったご馳走が振る舞われた。
メニューやレシピもあっこさんの助けを借りながら2人が中心となり考案。
この日のアブサロンには、鯛の養殖をする徳弘さんご夫妻の姿もあった。
「多一郎さんと清子さん(徳弘さんご夫妻)の養殖場を見学して、愛情を注ぎこだわりを持って鯛を生産されていることを知りました。そのため普段捨ててしまうような鯛のアラや鱗も余すことなく料理で使おうと思ったんです」
「この地域で作られている野菜の味の濃さにも驚きました。シンプルな味付けでも美味しいですし、皮も無駄にしたくなかったのでカブと柑橘の皮で酢漬けも作りました」と、インターン期間で感じたことを振り返りながら料理の説明をする学生たちに、参加者から大きな拍手が送られた。
森・川・海という自然はまさに食材の原点であり、その繋がりが土台となって生産者の愛や努力によって土地の食材が育まれている。食材の背景にある自然や生産者たちの存在を感じた彼女たちが、それぞれの場所で料理人としての誇りを胸に歩んでくれることを願っている。
以下インターン参加学生からの感想
1 私たちは普段、食材がどのように作られているかを知る機会はほとんどなく、生産現場を見ることも稀です。生産者の方々から直接お話を伺ったり、自然と触れ合いながら食材について学ぶ中で、食材の生産現場と豊かな自然は深く結びついており、森、川、海の恵みがあるからこそ美味しい食材が生まれるのだと実感しました。今回の見学では食材と自然との繋がりを学ぶ上で非常に貴重な経験できました。そして、これからも食材への理解を深め、自然への感謝を忘れずに、食の道を追求していきたいと思います。
2 私の目標は「食材をいかす」料理人になることです。専門学校では、実習や講義を通して料理の技術と知識を学ぶことはできても、生産者さんや現場に触れる機会が少なくこのまま就職し社会人となることに不安を感じていました。料理人は肉、魚、野菜、さまざまな食材を使い、一皿の料理を作ります。今まではそれらの食材を切り離して考えていましたが、今回のインターンを通じて、海も山も人も全て繋がっているのだから、その食材だけをみるのではなく生産者さんの思いや環境などにも思いを巡らせ、広い視野を持つ必要があると考えるようになりました。今回のインターンシップで生産者さんとお会いしたり、森の国のみなさんからお話やお考えを伺うことができ、とても勉強になり、社会人になる心構えができました。今後も目標とする料理人に少しでも近づけるよう、学び続けていきたいと思います。