LIFE

森の国 Valleyの営み
2021.04.25

ガラスの表情

#Craftmanship#アップサイクル#工芸

森の国まつのの道の駅「虹の森公園」には数々のガラス工芸品が並んでいる。

その奥には虹の森ガラス工房「風音」がある。ここではガラス職人のご夫妻が松野町の地元でガラス瓶を集め、リサイクルをして新たな作品を作っている。

森の国に移住したガラス職人夫婦

高知県出身のご主人、山岡健輔さんは15歳の時に、ここ松野町のガラス工房の講座を受けたことがきっかけで、ガラスづくりを始めた。

健輔さん「小さい頃からものを作るのは好きだったんですよね。小学生の頃はカスタムナイフを作ったりとかしていて。」

そして、東京でガラス工芸の研究所を卒業し、その後も工芸が盛んな福井県や石川県のガラス工房で経験を重ねた後、金沢の工房で知り合った奥さんの由子さんと共に10年前に松野町にやってきたのだった。

由子さんはOLとして働く傍、ご友人の勧めで金沢のガラスづくり講座に行ったことがきっかけで、ガラスの世界に足を踏み入れることに。

由子さん「自分でガラスを巻き取って自分で形にするというのにハマってしまったんですね。それからはもう仕事どころじゃなくなって。笑」

松野町へ戻ってくることに少し躊躇いもあったという健輔さん。

健輔さん「料理でも、全てそうですけど、経験を積むには他の作家さんがたくさんいる土地の方がやっぱりいいですよ。ここは自分の作品にはしっかりと向き合えるのですが、もの作りにおける交流が少なくなるのはわかっていたので、戻ってくるか、少し悩みました。」

由子さん「もの作りをしているといろんな人の作品を見たいので、ここにくる上で他の作品に触れられなくなることを一番心配していたけど、今はSNSやネットで巨匠や最近のアーティストの作品も見れるので、不自由はしていないかな。」

ガラスの表情

由子さんはインタビューの中でよく、「ガラスの表情」という言葉を使う。

由子さん「溶かし方や色の組み合わせ方や、タイミング、技、道具を使い分けることで、ガラスの表情が変わるんです。例えば、琉球ガラスのような泡がいっぱいのものだったり。」

器やコップのデザインのことを『表情』と表現するその言葉の裏側には、職人による一手間が隠されているような温かみを感じる。

陶芸は、素材の配合や温度の違いで色の変化を出すことができるが、ガラスの場合、基本的には色のパターンは決まっている。その色をどんな風に組み合わせて、またどんな形で模様を出すかを研究しながら変化を出していくのだという。

また、ハサミや、パスなどの道具も技術を磨く上で重要なアイテムだ。

健輔さん「みんな全然興味ないかもしれないけど、ガラスの道具を並べているだけでウキウキするんですよ。色んな工房に行ったら色んな道具があるじゃないですか。どれを使っているのか気になります。こう、なんかね、ワクワクするんです。」

と楽しそうに語る健輔さんを見ていると、好きなことを仕事にしている職人さんの熱い思いも伝わってくる。

奥深いガラス職人の世界・・・

ガラスは温度の上昇下降によって、伸び縮みする。熱すると膨張して、冷めると縮む。その度合いを膨張係数というが、膨張係数はガラスの原料によっても異なる。組み合わせた原料の膨張係数が合わないと割れてしまう。

健輔さん「作業中、500度以下になったらパカっと割れてしまうので、割れないように、色、動き方、厚みなどを見て、熱をうまくコントロールしながら整形していきます。」

由子さん「ガラスは、手で直接触れることができないので、道具を使って自分の技を磨くことが一番の研究部分だったりして。自分ができる技の範囲で、表現の仕方を変えて様々な表情を出していくんです。」

また、ガラスは金属を入れることで色をつける。

健輔さん 「鉄を入れると緑っぽく、ゴールドを入れるとピンクっぽく、そして酸化コバルトを入れるとブルーの色がでます。」

私が特に目を外せなかったのは、宇宙のデザインが施された作品だった。

色鮮やかで、透き通って見える印象を与えつつ、色がついているので先まで見えない奥深い世界が、丸い花瓶の中に広がる。

健輔さん「これは、銀を溶かし込んで、星を作るんです。結構珍しいというかね。釉薬と同じで色々と試して、やってみて、こんな原料が使えないかな、という研究の積み重ねで。

ガラスの成分というのは色々な物に入っていて、例えばピザ窯に残った灰もソーダ灰などを入れ高温で煮込んであげるとガラス化していくんですね。石を砕いて、ソーダ灰、石灰などをいれたりすると、不透明な石が透明になっていくんですよ。もうこれは、びっくりしますよ。笑」

一見同じように見えるガラスの種類は、実は非常に多く、その中でもよく見るものとしてはソーダガラス、クリスタルガラス(鉛ガラス)、ホウケイ酸ガラス(耐熱ガラス)の3つがあげられるのだそう。

健輔さん「ここでは一般的な窓ガラスや瓶と同じ、ソーダガラスを使っています。質が硬く、流通量も多いものです。

酸化鉛を使うクリスタルガラスは、酸化鉛をたくさん入れれば入れるほど、質量が高くなり屈折率が高くなるんです。屈折率が高くなると、入った光を出すときにきらっと光る。なので、酸化鉛を多く含んだクリスタルガラスが使われているダイヤモンドはきれいに光ります。

その代わり鉛は柔らかい素材なので、傷がつきやすい。綺麗なんだけど傷もつきやすいので丁寧に扱ってあげないといけないんですね。

あとは、ホウケイ酸ガラス(耐熱ガラス)です。できるだけ膨張係数を小さくすると、耐熱ガラスができるんです。」

ガラスの良さを知って欲しい

虹の森ガラス工房では、全6回にわたる講座に加え、1回きりのガラス作り体験も行っている。

由子さん「自分たちの工房を作りたいっていう想いもあるのですが、それよりもたくさんの人にガラスが楽しい、きれいだな、と思って欲しいという気持ちが強くあって。だから今のスタイルが自分に合っているかなと思っています。

たぶん自分の作品に集中して作りたい人は体験や講座ってやっていられないと思うんです。でも私たちはお客さんが喜んで楽しんで帰ってくれるのが嬉しいし、自分で作ったものを家で使ってくれたら嬉しい。

地元のものをアップサイクル

リサイクルや環境教育にも力をいれている虹の森公園のガラス工房では、地元でガラス瓶を集め、一度使われた素材に息を吹き込むことで、再び、美しいガラスに蘇らせている。

由子さん「地元のものを考えて作っていきたいなと思っています。端材とか、ガラスではないものをガラスに流用できないかなと思いながら生活していますね。そして(ゴミや環境負荷を減らしていく活動も)ずっと続けていきたいなと思っています。」

山岡ご夫妻は、ガラスの知識がない私にもわかりやすく、丁寧に説明をしてくれた。インタビューを終えて実際にガラスを溶かし、作品をつくる健輔さんの姿は、穏やかで優しい表情から、勇ましいプロの顔に様変わりしていた。

次に虹の森公園に買い物に来た時は、隣のガラス工房でガラスを眺めながら、それぞれがもつ表情をゆっくり見てみたい。

ライター/井上美羽