LIFE

目黒らしさとは?Vol.3 『軌跡から掘り起こす』
#History&Culture#地域の暮らし#目黒の伝統
水際のロッジスタッフ(目黒探検隊)は松野町役場の(通称)亀ちゃんに「目黒らしさとは何か?」についてフィールドワークを行いながら森の国目黒についての理解を深めている。
今回は亀ちゃんガイドの元、上目黒(目黒の上流地域)を探検しながら、まちをさらに深堀りしていく。

奥新田井出(目黒の最上流にある井出)
前回の記事<目黒らしさとは?Vol.2『暮らし・生業から紐解く』>では、田んぼの水を引くという話をした。
目黒で一番長い水路の入り口「殿井出」の他にも、いくつか井出があり、今回は目黒の中でも最上流にある井出「奥新井出」までやってきた。

「この井出はずっと昔のまんまですね。コンクリートではなく手彫りの水路で、岩盤を削って溝にしたやつが下の方までずっと続いていて。
江戸時代の絵図にも記録が残っていることから、少なくても江戸時代からそのままあるものだということが伺えます」


塩利様(シオリサマ)の御堂

塩利様(シオリサマ)という女性がここで、蕨の根を掘っていると、上から大きな岩が落ちてきて腰を打って亡くなったという言い伝えがある。
このことから、下半身の病気や怪我にご利益があるとされていて、安産祈願としてお参りにくる人もいるという。
今でも12月25日前後(旧暦の11月11日)に毎年お祭りをしている。
「毎年開催されるこのお祭りは、地域のコミュニティーをつなぐためにも、とても大事なことですよね。コロナ前は町外からもお客さんがきていたみたいです」

クロスケブチ(雨乞いを行なっていた聖域)
目黒は水が豊富な地域。
田んぼや農業が昔からこの町の主要な生業であったことから、『水』は命の手綱。
水への信仰が強い目黒では、『クロスケブチ』と呼ばれる場所で昔から雨乞いが行われ、雨や水に感謝をするという行事があった。
「ここで御祈祷すると、必ず雨が降ったそうなんです。その年で一番若い独身の青年がお地蔵様を背負い、ここまで運んできて、クロスケブチにしめ縄をして雨乞いをします。一番最後に行われたのは、およそ70年くらい前だそうです。」
龍や蛇は、水の神様の象徴といわれており、それに関係があるのか、クロスケブチは『蛇の穴』と呼ばれる洞窟とつながっているらしい。

上目黒のカゼガキ(防風石垣)
この地域は、冬になると滑床から強い季節風が吹き下ろす。
特に上流に位置する家屋では、防風垣を設け「ニシカゼ(西風)」と呼ばれる強風を凌いでいた。これらの防風垣は今でもそのままの形で残っており、この地域の昔の人々の生活の知恵を窺うことができる。

「ここの石垣は、『算木積み*』というお城の石垣にも使われているような古い技術を使われているんですね。また、表面を削り、平にして、面をつくる、といった技術も見られます。こうした石積みの手法や技術を見ていくと、いつの時代に作られたものなのかが見えてきます。」
(*算木積み:直方体の石材の長辺と短辺を交互に組み合わせて積む方法)
「たとえば石を割るときに、くさびを入れていくのですが、その穴が石に残っています。その長さや太さを測ることで時代がわかります」
「石の声を聞く」ことでこのまちの昔の風景が目の前に浮かんでくるのだ。
五輪塔(戦国時代に作られたお墓)
目黒にはいつから人が暮らし始めたのだろうか。
よくよくまちを探検してみると、目黒城跡があったり、神社があったり、お堂があったりとまちに残る昔の人々の暮らしの痕跡が至るところに散りばめられていることが発見できる。

これは戦国時代につくられたと推測される五輪塔。5つの石材パーツから構成されており、上から「空・風・火・水・地」を表している。
お墓の一種である『五輪塔』は全国至る所に見られるが、それぞれ少しずつ形が違う。
「年代や地域によっても趣が少しずつ違っていて、例えば、これは戦国時代だと思われるのですが、一番上の「空輪」の部分が丸みを帯びているのが特徴です。この部分がニョキッと伸びているタイプは江戸時代です。また、石材の種類を調査していくことで、その石材がどこからやってきたのかがわかり、地域同士の交流があったことが見えてくることもあります」

木札と藁草履

境界を意味するズナンモリ(木札と藁草履)を発見。
疫病退散など、厄払いの風習として置かれる草履は愛媛南部〜高知県の地域に多く、愛媛県最南部に位置する愛南町などでも大きな草履を発見できるのだそう。
まちを歩いた時は道路脇に目を向けてみると、草履を見つけられるかもしれない。
森の国、目黒にはまだまだ知らないまちの歴史や伝統文化がたくさん。
まちを探検しながら深掘りしてみると、普段は見過ごしがちな小さな秘密に気が付く。
隠された秘密に気づき、その背景を知ればしるほど、森の国というまちがより輝きを放ってみえてくる。
ライター/井上美羽