LIFE
滑床渓谷の清流水でつくるナメ米づくりVol.2【草と稲】
#Agriculture#米作り#自然農法
1年目の新米農家細羽ご夫妻の自然農法米チャレンジを追った本記事。
Vol.1の前回の記事では、水と土に焦点を当てて米作りの上半期を追った。
8月に入ると、稲は一気に大きくなり、農家は忙しい時期になる。
稲と同時に草が育ち、除草との戦いになるからだ。
除草戦争の夏
苗と苗の間に生えてくる草を、田んぼの中に入り、一本一本手で抜いていく。
「この時期に田んぼに入るとぬかるんでいて歩くのも大変」と伸枝さんは話す。 「草引き期間は一反だけでも全部やるのに半日〜1日かかる。終わったと思ったら1週間後にまた生えてたりするから、やるかぁ〜って言ってまた始めて・・・」
終わりなき除草戦争だ。
中でもヒエという草は手強い。なかなか簡単には抜けないため、タネを落とさないように気をつけながら、鎌を使って抜くのだという。
「ヒエは最初は小さいけど、8月終わりくらいから目立つようになるの」
放っておくと、栄養を取られて稲の収穫量が落ちてしまうため、根気強く少しずつ抜く。
昔の里山風景を〜稲架掛け〜
こうして草と格闘した夏が過ぎ、いよいよ稲刈りの季節となる。
昔ながらの里山風景を復活させるために細羽夫妻は「稲架掛け(はさがけ)」にチャレンジする。
稲架掛けとは、束ねた稲を棒などに架けて約2週間、天日(太陽光線)と自然風によって乾燥させる昔ながらのやり方だ。最近は、コンバインという稲刈り・脱穀・選別を同時に行うことができる機械が普及し主流になったため、稲架掛けの風景はあまり見かけなくなった。
「稲を刈ってそのまま束にしてくれるバインダーという機械があって、その機械を使って横に倒れた束を、みんなで集めて組み立てた木のところに掛けに行って・・・」
刈る、組み立てる、干すをみんなで役割分担しながら日暮れまで丸一日かけて行ったのだという。
ちなみに稲架を立てる場所も日当たりや向きも関係するため、真ん中に立てるなどのコツがあるそうだ。
天日干しから脱穀まで
稲を架けてからは、2〜3週間天日干しを行う。目黒地域に懐かしの秋の田園風景が蘇る。
「コンバインは刈り取ったらすぐに脱穀して、藁は切り刻んで肥料にしてくれるから、コンバインの発明ってすごかったんだよね。手間暇考えたら圧倒的にコンバインを使いたい気持ちになるけど、あえて天日干しを里山の風景として残したいから、来年も、せめて一反は稲架架けのやり方を続けたいな」
と細羽さんは話す。
「米作りをするまでは、田んぼのことを分断的には知っていたけど、流れとしては全然知らなかったよね」と伸枝さん。
この後は、稲からお米となる籾の部分を取る「脱穀」、稲を2〜3週間ほど乾燥させ(機械だと一瞬)籾殻を取り玄米にする「籾摺り」を行い初めて食べられる玄米ができる。
現在一体どれだけの日本人が、玄米になるまでの米作りの過程を知っているのだろうか。
精米をし、ご飯を炊く。
こうして初めて、器に盛られたつやつやの白米ごはんが食卓に並ぶ。
「目黒のお米には光があると地元の農家さんが言っていた言葉が印象的で」
「水が豊富な目黒地域だからこそ、お米に水分量が多く含まれて艶が出るんだ」と細羽さんと伸枝さんは語る。
編集後記〜半年の取材を終えて〜
米農家になった細羽ご夫妻に密着した半年間かけた取材を終える。
普段何気なく毎日口にしているお米は、これだけの期間と努力の上でできていることを改めて知り、そしてその裏側には、農薬や化成肥料の問題、高齢化問題、文化継承の課題や、日本の農業政策、最終的には政治の問題まで繋がってくることに気付かされた。
農薬や化学肥料、除草剤、機械といった便利な道具が発明され農業も効率化されていく中で、環境問題や健康被害も深刻化している現代社会では、効率性や大量生産・大量消費を第一優先とする時代も変わるべきなのかもしれない。
実際に手を動かして初めて見えてくる課題も多くあり、こうした課題に対して試行錯誤を重ねながら一つずつ解決策を見つけている農家たちが、日本には各地で汗水を垂らしながら作業している。
農業の課題を地域を跨いで共有していくことができれば、解決への道もさらに広がるのではないか、と細羽さんは話す。
「農業の情報がクローズドになっている中で、農家さんがみんな自分流でやっていて。ある人はこれが正しい、ある人は間違いと言っている状況がある。もっと情報を整理してみんなでシェアすればもっと良いやり方が見つかると思うんだ。長年の経験を積んだ農家さんがいても、稲作は一年に一回しかできないから、例えば20年やっても20回しかできない。だからこそ、もっともっと情報をシェアしていくことが必要だと思う」
情報のアップデートを行いながら、森の国で細羽さんは来年も新たな米作りに挑戦する。
米づくりの現場を体験したい、知りたい若者も募集中だとか・・・?
来年はどんな発見があるのだろうか。今から楽しみだ。
ライター/井上美羽