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2026.10.29

Vol. 23 経世済民

Social Regenerator(地域蘇生人)の細羽雅之です。

今年も稲刈りが終わりました。

出来は、30点といったところでしょうか。

無農薬で育てている田んぼの半分が、ヒエだらけになってしまいました。来年に種を残さないよう、稲刈りを待たず、稲もろとも泣く泣く刈り取ったところもあります。

それでも仲間たちは、目をキラキラさせながら田んぼに向き合っています。

何がいけなかったんだろう。
来年は、こうしてみたらどうだろう。

思うようにいかなかった田んぼを前に、嬉々として話し合っている。

その姿を見ていると、今年も満点だったのかもしれない、と思うのです。

もちろん、お米を専業にしていたら、そんな悠長なことは言っていられません。収穫量は、そのまま暮らしに関わります。

それでも僕は、お米の出来不出来だけでは測れない、この営みそのものを、年々愛おしく感じるようになりました。

田んぼを始めて、今年で6年目になります。

きっかけは、コロナで仕事が止まっていた頃。隣に住むおじいちゃんからの一言でした。

「田んぼ一枚、やってみんか?」

高齢化が進む目黒集落では、田んぼを引き継ぐ人がいなくなっています。おじいちゃんも、そのことで困っていたのでした。

農業には全く縁のなかった僕ですが、時間だけはたっぷりありました。

「いいですよ」

今思えば、ずいぶん軽く引き受けたものです。しかも、ろくに知識もないまま、無農薬でやってみようと決めました。

そこから6回目の稲刈り。

相変わらず思うようにはいきませんが、あの一枚の田んぼから、暮らしが少しずつ変わっていきました。

自分で育てたお米を食べるようになり、毎日の食事に関心が向く。お米から麹へ、麹から発酵へと、日本に受け継がれてきた食の営みに触れるようになる。

そうして暮らすうちに、僕自身、腸の調子がよくなり、体だけでなく、心や思考も落ち着いていく感覚がありました。

病気になった時だけでなく、日々の暮らしの中で健康を育むことにも、関心が広がっていきました。

集落には赤ちゃんが生まれ、通信制高校「あめつち学舎」も開校しました。

子どもたちと過ごしていると、大人が何かを教えるだけが教育ではない、と感じます。自然の中で、大人も子どもも一緒に学んでいる。

そして、ここで出会った仲間たちと共同体を育み、森に入り、森林や水源の再生に取り組む。

森が水を育み、その水が田んぼを潤す。
田んぼで育ったお米が、僕たちの体をつくる。
その恵みを受け取った人が、また森や田んぼに関わっていく。

森・農・食・医・育。

森の国Valleyの五つの柱は、最初から計画して並べたものではありません。一枚の田んぼを入口に、暮らしの中でつながっていったものです。

全てはつながっている。
人も、自然の一部である。

頭で理解していたつもりのことが、少しずつ、自分の実感になってきました。

そんな暮らしの中で、あらためて考える言葉があります。

「経世済民」。

世をおさめ、民を救う。

僕はこの「経」という字に、織物の経糸を重ねてしまいます。時代を超えて、暮らしをつないでいく糸です。

今を生きる人が健やかに暮らし、その営みを、次の世代へ手渡していく。経済も経営も、そのためにあるのではないか。

経営者である僕自身に、問いかけています。

2015年、ホテル経営の会社、サン・クレアを起業した時、僕は「売上100億円」を目標に掲げていました。

訪日客が増え、ホテル業界には追い風が吹いていました。全国でホテル開発や運営のプロジェクトを抱え、奔走する毎日でした。

加盟するホテルチェーンで何度も金賞をいただき、大手ハウスメーカーと新しいホテルブランドを立ち上げる。事業は拡大していきました。

でも、心の奥には、いつも小さな違和感がありました。

この拡大は、いつまで続くんだろう。
その先に、本当の幸せはあるんだろうか。

その問いに向き合わざるを得なくなったのが、2020年のコロナでした。

全てのホテルの営業が止まり、売上がゼロになる。

倒産を覚悟しました。

何度も何度も自問自答する中で、僕は、拡大を経営の目的にすることを手放しました。

今ある事業を、大切に、大切に育む。
その土地の自然や、人の暮らしとともに、長く続く営みをつくる。

経営の軸を、そこに置き直したのです。

その中心にあるのが、森の国Valleyです。

父の会社の倒産を経験している僕は、その厳しさを知っています。関わる人に大きな負担をかけることも。

それでも、会社が行き詰まることと、自分が生きて取り組む意味を失うことは、同じではない。

人の暮らしに必要な営みをつくる。その意志がある限り、何度でもやり直そう。あの時は、そう腹をくくっていました。

幸い、政府の緊急支援や、ホテルを療養施設として活用する需要に支えられ、事業をつなぐことができました。

そして、借り入れた資金や、その間に得た利益を、森の国Valleyの未来に注いできました。

新しいホテルの開発に振り向けていたら、会社は別の姿になっていたかもしれません。

でも、僕はこの場所を選びました。

あれから6年。

率直に言えば、サン・クレアは今、コロナ禍の融資の返済も重なり、とても厳しい経営状況にあります。

自然や人のつながりが大切だと言うだけでは、経営は続きません。資金を回し、返済をし、事業を続けられる形にする。それも、僕の仕事です。

その現実に向き合いながらも、僕自身の軸は、1ミリもぶれていません。

環境が変わり、AIが急速に進化していく時代だからこそ、人が自然の一部として生き、互いに支え合う営みを、次の世代につなぎたい。

その思いは、ますます強くなっています。

今年の田んぼは、30点でした。

来年は、もっとお米を実らせたい。
仲間と知恵を出し合い、ちゃんと収穫につなげたい。

同時に、あの田んぼでみんなが目を輝かせていたことも、僕は大切にしたいのです。

収穫を増やすことと、暮らしを豊かにすること。
その両方を、諦めずに育てていく。

僕にとっての経世済民は、きっと、そういう営みです。

この先に何があるのか。
大変なことも多いけれど、やっぱりワクワクしています。

いつ死んでも後悔しないように。
今日も、この場所で、経糸を紡いでいます。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

あめつち便りは、代表細羽雅之が森の国Valleyの考え方を、日々の営みを通してお伝えするコラムです。メルマガで定期配信いたしております。

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