RESIDENTS

No.38
おとぎの森で見つけた私
現在は、2025年春から新たに始まった教育事業「あめつち学舎」の寮母としても活躍する彼女。実は学生時代から「寮母さん」になることを将来の夢に掲げていたという。森の国Valleyで早くも夢を叶えた彼女にインタビューを行った。
自分の価値を問い直して
「大学時代は入学と共にコロナ禍でした。人との関わりが極端に減って、一人で過ごす生活は何をやっても満たされなくて。その時に、自分はずっと誰かがくれた評価軸で生きてたんだなって気づいたんです。誰かに認められることが自分の価値になってしまっていて、このまま社会人になっても、会社にとって都合のいい自分を演じてしまうだけだなって」
そんな中出会ったのが、森の国Valleyだった。
「森の国には『誰かに言われたからこれをやる』って人がいなくて、まいまいは野外教育を誰かに言われてやってるわけじゃないし、清水さんも藍を育てるのは自分がやりたいから。その姿を見て、ここなら自分の軸が見つかるかもって思ったんです」
高校時代という“お守り”
「自分にとって、高校生活がすごく大きな財産なんです。聞き分け悪く全てに真正面から本気でぶつかって、言い合いもして。全てをさらけ出して得た経験や仲間は、嘘偽りない自分を教えてくれます。今でも悩んだ時に『高校時代の自分だったらどうするかな』と考えると、おのずと自分らしい選択ができるような気がして。高校生活全てが今でも自分のお守りみたいな存在なんです」
大学生になって将来を考えた時、今度は自分がお守りを与える存在になりたいと思うようになった。その夢が形になったのが、あめつち学舎の寮母だった。
夢の寮母になって
「あめつち学舎の寮母には、一般的な寮母っぽい仕事はありません。料理も最初は一緒にやってたけど、5月にはもう自分たちでやるようになって。気がつけば寮を飛び出して、スタッフの家で過ごす子もいたり(笑)」
そんな寮生との関わりは自然栽培で植物を育てることとよく似ているという。
「植物を育てる時には、それぞれの特徴を勝手にコントロールしないように気をつけています。『もう少しこっちに伸びてくれたらいいのに』と思う時もあるけれど、肥料や農薬をあげると植物が本来持っている力を損ねてしまう。教育も同じで、『こう育ってほしい』と余計に手を加えてしまったら、きっとその子の良さが失われてしまう。『これは必要な手入れ?勝手な押し付け?』と、日々葛藤しながら寮生に接しています」
寮母としての挑戦と成長
寮母をしながら、自分の中でも変化を感じるのだそう。
「森の国のスタッフは、得手不得手がはっきりしている。その中で過ごすうちに『できないことがあって当たり前だよね、補い合いながらやっていければいいよね』みたいな意識が自然と身について。昔の自分だったら寮母の仕事を何でも一人で背負い込んでいたと思うけど、今では状況に応じて『この人のほうが寮生の役に立てそう』と自然にバトンを渡せるようになりました。人に頼ることを前向きに考えられるようになったのは、大きな変化です」
「まだあめつち学舎も1年目なので、寮母のポジションを作り上げていく段階なんですが、それと同時に自分がいなくても彼らが集落で生活できるように、自分の存在意義を無くしていきたくて。ある意味矛盾している挑戦。難しいけど面白いです」
自分を生きる花のように
まこっちゃんに、さらに森の国Valleyで挑戦してみたいことや夢があるのか聞いてみた。
「お花屋さんと本屋さんをやってみたいです。花って、唯一の優れた咲き方がある訳じゃない。さまざまな大きさや色の花があって、どれも正解なんです。そんな姿を見ていると、私も他人と比べずに自分らしくいればいいんだと思うことができて。自分は自分のままでいいということを他の人にも感じてもらいたいんです」
「この森には感覚的に生きる力のある人が多い。でも私は都会育ちのインドアで、感覚よりは思考で動くタイプ。だからこそ、この場所に文化的な要素を加えられる存在になれたらと思っています」
「めでたし、めでたし」のその先を
自分の軸を見つけるために故郷の東京を離れ、森の国Valleyで夢を叶えた彼女の姿は、おとぎ話のヒロインのように周りの人の背中をそっと押してくれる。しかし、まこっちゃんの物語は、寮母になるという夢を叶えただけでは終わらない。
ページをめくるたびに新たな挑戦と発見で溢れる彼女の物語に、これからどんなページが綴られていくのか、私たちも一緒に見守っていきたい。
ライター/芝和佳奈