あめつち便りアーカイブ
Vol. 17 つながっていたものを、もう一度つなぐ
Social Re-generator(地域蘇生人)の細羽雅之です。
僕たちが暮らす目黒集落の真ん中に、「和霊神社」という神社があります。

決して大きな神社ではありません。
けれど、この集落に暮らしていると、和霊神社が単なる「神社」ではないことに気づきます。
夏になると茅の輪くぐりがあり、祭りには牛鬼が出る。
僕たち移住者も、地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちに教えてもらいながら、その行事に参加しています。
「これは、どうやってやるんですか?」
「昔はどうしていたんですか?」
そんなことを一つひとつ聞きながら覚えていく。
そしていつか僕たちが、それを次の世代に伝える側になる。
そんな営みが、この小さな集落では今も続いています。

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ところが先日、地域のお年寄りと話していて、興味深いことを聞きました。
「昔はな、この辺りにも、もっといっぱい神社や祠があったんよ」
山の中にも。
田んぼの近くにも。
水のそばにも。
今ではどこにあったのかさえ分からなくなったものも含め、かつてこの集落には無数の小さな神社や祠があったといいます。
それらが明治時代に次々と統合され、現在の和霊神社へとまとめられていったそうです。
いわゆる「神社合祀」です。
この話を聞いてから、僕には少し違った景色が見えるようになりました。
なぜ、こんな小さな集落に、それほどたくさんの神社や祠が必要だったのだろう。
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少し調べてみると、かつての日本人にとって、神社や祠は単なる宗教施設ではなかったことが分かります。
山には山の神がいる。
水源には水の神がいる。
田には田の神がいる。
大きな木や岩にも神が宿る。
つまり神々は、人間の暮らしのすぐそばにいた。
そして、それは同時に、
森を大切にすること。
水を大切にすること。
田畑を大切にすること。
その土地で一緒に暮らす人たちを大切にすること。
そんな営みと、どこかでつながっていたのだと思います。
当時の人たちは「生物多様性を守ろう」と言って森を守っていたわけではありません。
「環境保全」という言葉さえなかった。
それでも森は残り、水は守られ、生き物が暮らし、祭りが続いてきた。
信仰と自然と暮らしが、まだ分かれていなかったからです。
―――――――――
明治時代の終わり頃、全国で神社の統合が進められました。
行政として管理しやすくする。
神社の財政基盤を整える。
近代国家として制度を整理する。
当時としては、それなりの合理性があったのだと思います。
ところが、この神社合祀に猛烈に反対した人物がいました。
南方熊楠です。
熊楠が危惧したのは、神社そのものがなくなることだけではありませんでした。
神社がなくなる。
すると、その周囲にある鎮守の森が失われる。
森が失われれば、そこに生きていた植物や菌類、昆虫が失われる。
祭りがなくなる。
人が集まらなくなる。
土地に伝わってきた記憶や文化も、少しずつ失われていく。
つまり熊楠が見ていたのは、
「神社」ではなく、
その土地に張り巡らされた「つながり」だったのではないでしょうか。
100年以上前に、です。
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このことを考えていると、神社合祀は単なる明治時代の歴史の話ではないように思えてきます。
その後の日本でも、似たようなことが続いてきました。
小さな神社をまとめる。
小さな村をまとめる。
小さな学校をまとめる。
小さな農地をまとめる。
小さな商店がなくなり、大型店へ集約される。
そして人も、仕事も、経済も都市へ集まっていく。
小さく、多様で、無数に存在していたものを、
大きく、均質で、効率的なものへ。
この100年余り、人間社会はその方向へ進んできたようにも見えます。
もちろん、それによって僕たちは大きな恩恵を受けました。
医療も、教育も、交通も、通信も飛躍的に発展しました。
だから、近代化そのものを否定するつもりはありません。
ただ、その過程で僕たちは、何か大切なものまで一緒に手放してしまったのではないでしょうか。
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自然界を見ていると、効率とは正反対の世界があります。
森には無数の植物がある。
土の中には無数の菌がいる。
無数の虫がいて、鳥がいて、動物がいる。
一見すると、ずいぶん無駄の多い世界です。
けれど、その「無駄」と「多様性」があるからこそ、一つが失われても、別の何かが補ってくれる。
それが、生態系の強さです。
人間社会も、本当は同じなのかもしれません。
小さなものがたくさんある。
違うものがたくさんある。
そして、それらが緩やかにつながっている。
そんな社会の方が、実は強いのではないか。
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僕は最近、この先の50年、100年を考えることがあります。
もしかすると僕たちは、
「もう一度、つなぎ直す時代」
の入り口に立っているのではないでしょうか。
もちろん、昔の暮らしに戻るという意味ではありません。
AIも使う。
再生可能エネルギーも使う。
遠隔医療も、自動運転も、ロボットも使う。
世界ともつながる。
その一方で、
自分たちの食べ物をつくる。
森を手入れする。
水を守る。
子どもを地域で育てる。
困った人がいれば助け合う。
そして、祭りを続ける。
昔からあるものと、これから生まれるもの。
その両方をつなぎ合わせていく。
それは「昔に戻る」のではなく、
人類がまだ経験したことのない、新しい社会なのかもしれません。
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もし100年後、2126年の人たちが僕たちの時代を振り返ったら、どう思うでしょう。
「なぜ当時の人たちは、森と海を別々に考えていたのだろう」
「なぜ農業と教育を別々に考えていたのだろう」
「なぜ環境問題と健康問題を別々に考えていたのだろう」
「なぜ人間の幸福と自然の豊かさを、別々のものだと思っていたのだろう」
そんなふうに、不思議に思うかもしれません。
森が豊かになれば、水が豊かになる。
水が豊かになれば、川が豊かになる。
川が豊かになれば、海が豊かになる。
豊かな土地から、豊かな食べ物が生まれる。
それを食べる人間の身体が健やかになる。
人が健やかになれば、共同体も健やかになる。
そして健やかな共同体が、また森を守る。
本当は全部、一つの循環なのだと思います。
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そんなことを考えながら、もう一度、集落の和霊神社を眺めてみます。
今、僕たちが目にしているのは、一つの神社です。
でも100年以上前のこの谷には、山の中にも、田んぼのそばにも、水のそばにも、小さな祠や神社が点在していた。
そこには、それぞれの土地と人との関係があったのでしょう。
そのすべてを、今から元に戻すことはできません。
けれど、その土地にあった「つながり」を想像することはできます。
そして、今あるものを次の世代へ手渡すこともできます。
今年もまた、地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちに教わりながら、茅の輪をつくり、牛鬼を出す。
子どもたちがそれを見ている。
やがて僕たちが教える側になり、
その子どもたちが、さらに次の子どもたちへ伝えていく。
一見すると、ただの小さなお祭りです。
けれど、もしかすると、
こういう営みこそが「Regeneration」なのかもしれません。
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僕は「Social Re-generator」という肩書きを使っています。
日本語にすると「地域蘇生人」。
蘇生するというのは、昔の姿をそのまま復元することではないと思っています。
自然を「保護」するだけでもない。
人口を「増やす」だけでもない。
観光客を「呼ぶ」だけでもない。
かつて存在していた、
森と人のつながり。
水と暮らしのつながり。
食と身体のつながり。
子どもと地域のつながり。
そして、人と人とのつながり。
一度ほどけてしまったそれらの関係を、
今の時代に合った形で、もう一度編み直していく。
近代という時代が、
「つながっていたものを分けていく時代」
だったとするならば、
これからの100年は、
「分けてしまったものを、もう一度つなぐ時代」
になるのではないでしょうか。
目黒という人口わずか数百人の小さな集落で、
森を守ること。
田んぼをつくること。
子どもを育てること。
祭りを続けること。
人を迎えること。
一つひとつは、とても小さな営みです。
けれど、それらが再びつながり始めたとき、
この谷全体が、一つの生命体のように蘇っていく。
そんな未来を、僕は想像しています。
100年前、南方熊楠が守ろうとしたもの。
そして100年後、僕たちの子孫が受け取るもの。
その間にいる僕たちは、
いま何を残し、何をつなぎ直すのか。
集落の真ん中にある和霊神社は、
そんなことを静かに問いかけているように思います。
長文をお読みいただき、ありがとうございました。
では、また森から。
Social Re-generator
細羽雅之
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私たちの身の回り、半径500メートルという、ごく近しい場所にあるリアルの営み。
デジタルを通じて広大な仮想空間がどこまでも広がっていく一方で、身体感覚を伴う現実の空間とつながり直すことで、初めて見えてくるものがあるのだと思います。
動画「集落の暮らし」
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